今年も素晴らしい漫画がたくさん出ましたね。10作品に収まらなくて、最終的に30作品を並べることにしました。楽しい。2013年1月1日から2013年12月28日までに出版された単行本から選出しています。では30位から。
30位
▽ 武富健治『惨殺半島赤目村』(1)
『鈴木先生』の武富健治さんによる新作は、趣味全開っぽい「閉鎖的な村でのサスペンスもの」。都会からやってきた医師・三沢が、かつての観光開発の失敗を聞かされたり(朽ち果てた観覧車!)、村社会の困難に直面したり(住人が集まる居酒屋で「どうも」で挨拶を済ませたら「礼儀を知らん男やのう……」とか詰め寄られちゃう)、謎の事件に巻き込まれたり(子どもが崖に突き落とされたり行方不明になったり)、村の暗部っぽい風習を見つけちゃったり(隔絶された集落と、村営の娼婦小屋)しつつ、自らのサイコメトリー能力で真実に辿り着こうとするが……という正直なところ設定が濃すぎて何が何やら状態!
武富さん特有の濃いコミュニケーション&セリフ量に加え、これだけの設定がてんこ盛りにされているものだから、たった1冊でお腹いっぱいです。ご本人は「横溝映画・・・というより池田敏春監督作品的なもの」を目指すとおっしゃられており、これはもう期待せずにはいられません。
http://comic-earthstar.jp/author/detail32.php
田舎の村で医者いじめ?『惨殺半島赤目村』 | 破壊屋
29位
▽ 吉田丸悠『きれいなあのこ』
アイドルグループ「平成絶対領域委員会」のメンバーたちを軸とした短編連作。ピュア百合アンソロジー雑誌「ひらり、」収録作品をまとめているので、概ねそういう感じではあるのですが、その根底にあるのは、女子中高生であるアイドルたちと、その友人との、美しくて醜くて、きれいで汚い感情の渦です。特に単行本の最初に掲載されている表題作は、終盤ですべてを破壊する恐るべき一言が待っていますので、わぁい百合とかいってぬるい百合を楽しんでいる皆様におかれましては是非とも「きれいなあのこ」の言葉を正面から受け止めていただきたいと思います。
僕自身はいわゆるアイドルを楽しむという機構が備わっていないらしく、アイドルを好きになるという経験がないのでそういった方向での評価はうまくできないなあと思っていたのですが、アイドル好きで漫画好きの同僚女性に勧めたところ「すごく良かった」とのことなので、アイドル漫画としても、また女性が読む作品としても充分イケるようです。さあ、キラキラ輝くきれいなアイドルたちとその友人たちの、きれいな嫉妬の渦に飛び込みましょう。
28位
▽ 木々津克久『名探偵マーニー』(2) (3) (4) (5) (6)
『フランケン・ふらん』の木々津克久さん、何を思ったか、今度は女子高生探偵もの! ぼさぼさ頭がトレードマークの名探偵・マーニーが毎週おかしな事件を解決するという、あらすじとしてはそれだけなのですが、週刊連載で、限られたページ数の1話完結型で、おかしな人々のおかしな事件が発生して解決するまでを描くという、恐るべき神業をもう1年以上続けていらっしゃる。頭の中身どうなってるんですか……と疑わずにはいられない今日この頃です。
人情とホラー・コメディの同居という木々津さんの持ち味はそのままに、少しマイルドにして、事件仕立てでお話が進みます。探偵ものというと殺人事件が思い浮かびますが、本作では殺人事件は稀で、だいたいは人探しであったり、不思議なことが起きているので調査してくれだったり……。最近はさすがにネタが苦しくなってきたかな、と思わなくもないのですが、マーニーが可愛いのでそんなことはどうでも良くなります。今後とも末永く不思議な人々のおかしな事件を生み出しては解決していっていただきたいものです。
27位
▽ コージィ城倉『チェイサー』(1)
ここ最近、手塚治虫を描いた漫画が一気に増えましたね。本作もそのひとつなのですが、あのコージィ城倉先生がそのまんまベタにやるわけがない。というわけで本作はひとつひねりを加えています。主人公は手塚と同時代を生きた漫画家・海徳光市。「手塚治虫ってそんなに面白いか?」と口では言いながら、手塚作品をすべて集め、手塚の行動を真似する、まさしく「チェイサー」である海徳を描くことで、間接的に手塚治虫の存在を浮かび上がらせます。
一方で、本作をひねりの入った手塚治虫ものとして読むだけでよいのか?という疑念も浮かびます。コージィ城倉先生は海徳を「フィルター」だと表現していますが、だんだんとフィルターである海徳自身があまりにも面白すぎる、という不思議な事態に突入していきます。僕らは手塚を面白がっているのか、それとも海徳を面白がっているのか。未曾有の漫画家漫画として、本作は燦然と輝きます。お見事!
26位
▽ 平野耕太『ドリフターズ』(3)
歴史上の偉人の皆さんで戦争だー、の3巻目。表紙は那須与一! ひゃっほう那須与一だいすき。だが男だ。
とにかく面白い。問答無用で面白い。主人公組である島津豊久、織田信長、那須与一のトリオが良すぎるのは言うまでもなく、それに加えて安倍晴明だのジャンヌ・ダルクだのハンニバル・バルカだの菅野直だのである。おまけにエルフだのドワーフだの謎の機関だのヒトラーが作った国だのが絡んできてどうするんだこれである。国とは、戦とは、誇りとは。そのすべてが平野節でぶっ放されるのである。まさに平野版魔界転生。面白くないわけがない!
問題はこれが1年5ヶ月ぶりの新刊だということです。4巻はいつになるのでしょうか……。
25位
▽ 山本むつみ、竹村洋平『八重の桜』(1) (2) (3)
ドラマの方はすっかり「あまちゃん」に話題を掻っ攫われた「八重の桜」、コミカライズも複数作品が展開されるという気合いの入りようでした。そんな中で、ジャンプスクエアにて連載されたこの竹村洋平さん作画版が、あまりにも素晴らしくて、どうしようという感じです。太眉熱血鉄砲大好き女の子奮闘記ですよ。あれっ、八重の桜ってそんな話なの!?
比較的ほんわかした描写の多い1巻から、戊辰戦争へと突入する2巻へのコントラストが実に見事。2巻ラスト、八重の弟・三郎の描写に至っては、竹村さんの圧倒的なまでの漫画力に平伏すほかありません。男装のスナイパーとして戦い続ける3巻まで、1年間の連載という期限付き(大河ドラマなので)でありながら決して駆け足にならない濃厚な展開にほれぼれしますね。
残念ながら限られた話数ゆえ新島襄が登場するところで完結、基本的には会津編のみではありますが、とにもかくにも竹村さんの漫画力の高さを堪能できる良い作品です。は〜尚之助様〜。
ジャンプSQ.[八重の桜]原案/山本むつみ 漫画/竹村洋平
http://www.s-manga.net/book/978-4-08-870674-0.html
24位
▽ 花沢健吾『アイアムアヒーロー』(11) (12) (13)
散々言われ尽くしていることですが、本作はいわゆる「ゾンビもの」としては異常なほどに人々の日々の営みを丁寧に描いています。ゾンビ化するウイルスが蔓延した世界において、人々はどのように生き、戦い、そして死んでいくのか。その日常をあまりにも丁寧に描写するが故に、話の進みは遅く、じれったい気持ちになっていきます。それでもなお、この『アイアムアヒーロー』が名作であることは疑いようがありません。
そうやって丹念に丁寧に描かれた異常事態における日常があるからこそ、爆発が映えるというもの。12巻、来栖編のラストで震えない者はいないでしょう。漫画という表現で、これだけものが描けるのか……と改めて驚愕しました。そうして再び物語は主人公・英雄へと戻り……ああ、いつまでも僕らは作者の掌の上だ……という気分です。完結までついていきます。
23位
▽ 押見修造『惡の華』(8) (9)
誰が何と言おうと2013年最高の映像作品のひとつであったテレビアニメ版も素晴らしい出来でしたが、原作の方は更なる深淵へと突き進みました。そうか、高校生編は、そういうことだったのか!
仲村と離れ、ひとり高校生活を送っていた春日の、常磐への感情を何と呼べば良いのだろう。再会した佐伯の言う通り、彼女は仲村の代わりなのか。彼女の書いた小説へと依存したいだけなのか。クソムシであるお前が人を幸せになどできるものか……。そう問う「惡の華」への返答は、あまりにも美しく、あまりにも気高いものでした。たぶん、人生でこれ以上の告白シーンを見ることはないでしょう。素晴らしい。
22位
▽ 小原愼司、トニーたけざき『星のポン子と豆腐屋れい子』
とにもかくにも1話目を読め、としか言いようがない。試し読みできるので。話はそれからだ。
小原愼司さん原作、トニーたけざきさん作画という豪華さで描かれるのは、往年のアフタヌーンを彷彿とさせる、最高のほんわかSF漫画(表紙詐欺)です。宇宙から来たセールスウーマンのポン子と、豆腐屋の娘であるれい子の、心温まる交流が1冊かけて描かれます。嘘じゃないよ! ほんとだよ!
毎回毎回こちらの予想を裏切る展開続きに、ああこれが漫画だ、漫画ってすごいなあ、面白いなあ……そんな気分にさせてくれる傑作です。
星のポン子と豆腐屋れい子 / 原作 小原愼司 作画 トニーたけざき - アフタヌーン公式サイト - モアイ
小原愼司×トニーたけざき対談!! 『星のポン子と豆腐屋れい子』単行本発売記念企画《前編》 大型コラボ企画が実現したそのワケは? - アフタヌーン公式サイト - モアイ
21位
▽ 野村宗弘『うきわ』(1)
小学館のWebコミックサイト「やわらかスピリッツ」連載時から大好きで仕方なかった、野村宗弘さんの新作!
『とろける鉄工所』で有名な野村さんですが、なんとこういう作品も描けたのか……という新境地です。社宅のベランダで展開する、お隣同士の「不倫未満」の物語。ゆっくりと、じんわりと、時にコミカルに映し出されるお隣同士の心理描写にただひたすら酔いしれましょう。なんでこんな描写ができるんだ……と打ち拉がれること受け合いです。
単行本では話と話の間に不思議な描き下ろしページもあって、作品の空気をより濃厚にしてくれています。静謐なのに饒舌。あっさりしているようでドロドロしている。いつ壊れるのか、いつ戻るのか、読んでてドキドキしたければぜひどうぞ。
20位
▽ panpanya『足摺り水族館』
panpanyaさんが個人で発行していた作品をまとめ直した作品集。表紙から中身から、もう作者のこだわりがありとあらゆるところから迸る、紙の本としていつまでも手元に置いておきたい気持ちにさせる1冊です。
一見してガロっぽい背景絵柄である一方、キャラクターは簡素なイラスト風で、夢の中なのか現実なのか、オチがあるんだかないんだか、夢幻のワンダーランドへと引きずり込まれるような物語が満載です。不思議な生き物や不思議な建物や不思議な街に包まれて、不思議な気持ちになっていくドラッギーな魅力は、ハマる人はハマるでしょうし、ハマらない人にはまったくハマらないタイプの作品でしょう。個人的には、これは上質な絵本だなあと感じます。ステキな水族館に行って、愉快な空間を堪能する、そういう絵本です。
19位
▽ 松浦だるま『累』(1)
何かある度にTwitter上でファンによる糞画像アップ祭りが始まってしまうことに定評のある松浦だるま先生のデビュー作。「累」と書いて「かさね」と読みます。
美しいままこの世を去った伝説の女優には、ひとり娘がいた。淵累(ふちかさね)。その醜い容姿から迫害され続けてきた彼女は、母の形見である口紅を塗ってキスをすると、相手と身体が入れ替わることを知り、美しい容姿の女と身体を入れ替え、舞台に立つ。女性の「美」と「醜」を真正面から取り扱うというとんでもない物語であり、同時に極めて優れた「女優漫画」としても読める本作、主人公である累を見ていてもういじらしいというか何というか、また累は累で「醜いアヒルの子」かと思ったら内面どす黒い上に、美しい容姿で舞台に立つ喜びを知ってしまうものだから収拾はつかず。女優こわい!
だがこの漫画にはひとつ大きな問題がある。それは何かというと、累はどう見ても普通に可愛いのである。可愛いよね? あれ? 可愛いよね? 裂けた口、可愛いと思うんだけどな……。
18位
▽ 雨隠ギド『甘々と稲妻』(1)
ずるい。この漫画はずるい。「このマンガがすごい!2014」オトコ編8位だけど、どちらかというと「このマンガがずるい!2014」にした方が良いと思う。
娘を育てる男やもめもの×料理もの、というこの時点でずるい上に、主人公は尋常じゃなく萌えるヘタレ気味の痩身メガネ教師だし、一緒に料理を作るのは教え子の黒髪ロング女子高生だし、主人公の娘はすげえ美味しそうかつ幸せそうにふたりの作った飯を食べるし。ずるい。ずるすぎる。
1ページ1ページから漏れ伝わってくる多幸感が尋常ではない。誰かと一緒にご飯を作るということ、娘と一緒にご飯を食べるということ、そうやって誰かを幸せにするということが、どれほど幸せなことか、その事実を圧倒的なまでの多幸感と共に叩き付けてくる、極めて危険な書物です。ずるい。ずるすぎる。こわい。ギドさんこわい。ちなみにギドさんはBLも描くし百合も描く先生なので、色気たっぷりの男も、可愛い女の子も描けるのであるが、ついに「美味しそうにご飯をかき込む娘」まで描けるようになってしまっていて、ずるいとしか言いようがない。ああずるい。人を幸せにできるということは、とても幸せなことなのだなあ。あと妻を喪って半年っていう設定やめてお願いだから……。ずるい。ずるすぎる。
17位
▽ クール教信者『おじょじょじょ』(1)
Webコミック「旦那が何を言っているかわからない件」で一躍有名になったクール教信者先生は、いまやさまざまな雑誌で商業連載を掛け持つ人気漫画家と相成りました。そんな先生のペンネームの元にもなっている、かつて2ちゃんねるで一世を風靡した新ジャンル「素直クール」を、ツンデレお嬢さまとぶつけてみたのが本作です。多分。
ツンデレと素直クール。お嬢さまと変人。金持ちをこじらせて孤立する少女・地獄巡春と、時代錯誤な変わり者で孤立する少年・川柳徒然。そんなふたりが仲良くなったら、どんなに世界は楽しいだろう。そう、この世界はとても優しくできていて、周囲と馴染めないはじかれものであっても、手を取り、笑い合うことができるのだと、本作はそう語りかけてきます。多分。
テンプレートなツンデレお嬢さまに悶えるのも良いですが、本作の真の萌えキャラが川柳少年であることは譲れません。いつもストレートに言葉を口にするように見えて、その内面は驚く程にナイーブで、受け身で、何かが壊れることに怯えています。地獄巡さんにとって川柳君の存在が奇跡であったように、川柳君にとっても地獄巡さんの存在は奇跡だったのです。ベタな恋物語を完璧に料理してストレート豪速球でぶつけてくるような、そんな奇跡の物語です。多分。
クール教信者、最新作「おじょじょじょ①」9月6日(金)発売!
素直になれないお嬢さまとクールな変人の優しい恋物語。クール教信者『おじょじょじょ』 - From The Inside
16位
▽ 増田英二『実は私は』(1) (2) (3) (4)
今、最も面白いラブコメ漫画です。
嘘が隠せない「アナザル」な主人公・黒峰朝陽は、実はクラスメートのクールビューティー・白神葉子に恋をしている。ところがある日の放課後、告白しようと教室を訪れた朝陽が見たのは、文字通り「羽を伸ばす」白神の姿だった。実は吸血鬼と人間のハーフであった白神は、その秘密がバレたら学校を辞めなければならないという。朝陽はその秘密を守り通そうと告げ、そうしてふたりは秘密を共有する友人となる……とあらすじを書くといかにもラブコメらしいラブコメなのですが、実は白神はアホの娘であり、それだけでなく、朝陽の幼なじみで新聞部の少女も、かつて朝陽が片思いをしていた堅物委員長(実は宇宙人)も、白神を追ってきた友人(実は満月を見ると狼男に変身する狼女)も、女子高生にしか見えない学校の校長(実は悪魔)も、朝陽になつく謎の少女(実は未来人)も、出てくるキャラクターが全員、一切の例外なくアホであるという、最高のアホコメディです。ラブコメじゃなかったのかよ。
アホしかいないので徹頭徹尾アホなことしか起きないのですが、1話まるまるアホなことをやって、ラスト2ページで突然シリアスなラブコメを突っ込んできたりするから侮れません。今、最も面白いラブコメ漫画です。何しろトム・クルーズもお気に入りだしね。
実は私は 第1巻 | 秋田書店
マンガ質問状:「実は私は」 アホ可愛い人外ヒロイン満載のラブコメ作品 - MANTANWEB(まんたんウェブ)
15位
▽ 押切蓮介『ハイスコアガール』(4) (5)
圧倒的な面白さは失速せず。むしろ加速。
押切蓮介先生の最大のヒット作となってしまったアーケード・ラブコメである本作。挫折を味わった主人公・ハルオの高校生編に突入し、ストーリーは混迷を深めつつある中で、本作最大の魅力であるゲームたちは時代にあわせて進化していきながらハルオに寄り添います。大野さんの家庭の事情、小春との三角関係などが目につきやすいのですが、それ以上に心を打つのが、丁寧にハルオとゲームを、そしてゲームを通じたコミュニケーションを描いている点です。好きなものに一生懸命になることの愛おしさ、大切さが、ゲームへの愛がにじみ出ています。ハルオがこんなにも魅力的な男になれたのは、ゲームのおかげなのだ、と心の底から思えます。
川崎のゲーセンとビジネスホテル、夏休みの最後の時間など、ひとつひとつのエピソードも最高に良い。宮尾やハルオママといったサブキャラクターも異常な程に魅力的に描かれていて、さすがの押切節と感じずにはいられません。ついにアニメ化も決定、ナムコやカプコンの完全強力による映像化をお待ちしております。
14位
▽ 山上たつひこ、いがらしみきお『羊の木』(3) (4)
刑期を終えた元受刑者を、住人に伏せた形で街へと受け入れる「極秘更生プロジェクト」。プロジェクトが行われる魚深市と、市長、住民、11人の元受刑者たちが描かれる本作は、当初は「社会派漫画」のように見えていたと思います。しかし、3巻、4巻と読み進めるうちに、もしかするとこれはもっと根源的な、「よく分からない隣人とどう生きていくか」という話なのではないか、と思えてきました。
山上といがらしという、ギャグ漫画家でありながら、同時に幅広いジャンルを描いてきた2人の巨匠だけに、本作もギャグありサスペンスあり社会派あり、と不思議な質感を保ち続けます。元受刑者たちはみな風変わりではあるけれど、今なお暴力をふるい続ける者もいれば、「あれ? この人、良い人じゃね?」と感じさせるような者もいて、住人たちと不可思議な交流を重ねていく。むしろ普通の住民の方が厄介だったりもする。そうやって僕らは隣人と関わり続けていくしかないんだ、という思いが首をもたげてくるのですが、一方で殺人が起きており、まったくもって一筋縄ではいかない複雑で多面的な街が描かれます。それはつまり、僕らが生きるこの世界とイコールです。
世界が丸ごと描かれていくような錯覚。本作から漂ってくる複雑で多面的なにおいは、人が生きるということそのものが放つにおいと同じなのかもしれません。
13位
▽ 阿部共実『大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集』
代表作『空が灰色だから』単行本未収録のカラー短編2作、Web連載「ドラゴンスワロウ」、デビュー作「破壊症候群」。天才・阿部共実のマイルドでポップな側面の作品で中盤までを占める個人作品集であり、ここまででも充分にアベトモのポップな魅力を感じ取ることは可能でしょう。本書は、柔らかく、読みやすい切り口で読者をアベトモワールドへ誘う、優しい本です。
だからラスト3編で僕らは絶望する。
本作品集のために描かれた短編「あつい冬」と「デタジル人間カラメ」で、『空が灰色だから』のテイストとはまた違ったアシッドな体験をした僕らは、最後に収められた表題作(にして、Webで公開された作者の最も有名な作品)で心を打ち砕かれます。これぞ阿部共実。僕らは天才の前では、ただ心を破壊されるしかないのです。
大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集 | 秋田書店
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=19369664
12位
▽ 諫山創『進撃の巨人』(10) (11) (12)
第1話から続いた最大の謎が、実にあっさりと、あっけなく正体を現す10巻。新たな謎がこれでもかと言わんばかりにばらまかれる11巻。そして、関わる者すべてにとっての地獄と化す12巻。これだけ人気があって、これだけ売れて、アニメも大ヒットで、なのに最も面白いのが、原作の最新のエピソードであるというこの事実を、どう受け止めればよいのか?
ライナー、ベルトルト、ユミル、ヒストリア、エルヴィン、アルミン、そしてエレンとミカサ。この地獄を生きるもの全員がそれぞれの思いを持って、クソッタレな地獄をもがき続ける。もうこれは戦争ものでも巨人バトルものでもなく、得体の知れない何かでしかありません。毎回毎回ページをめくるたびに度肝を抜かされ続けて、本を持つ手が震えます。
大量の伏線から読み解ける世界の真実は、もはや地獄以外の何ものでもなく、救いのある結末を期待できるような状況ではありません。これだけ広がってしまった作品をどう展開させていくのか、来年も楽しみです。あと、どれだけゲスミンとネタにされようと僕はアルミンが大好きです。12巻のアルミン最高だろうが!
11位
▽ 平方昌宏『新米婦警キルコさん』(1) (2) (3) /『帰ってきたっ!新米婦警キルコさん』
人類は2種類に分かれる。キルコさんを面白いと思う人間と、それ以外だ。
2012年末、週刊少年ジャンプに突如あらわれた緑髪の新米婦警に、人々は湧いた。1話公開後、ふたば☆ちゃんねるにはスレが立ち続け、pixivは彼女の絵であふれかえった。傭兵上がり、眼帯、グルグル目、眉なし、緑髪、巨乳、タイトスカート、黒ストという作者の好み全開と思しき設定キメラっぷりと、どこか懐かしい香りのする古き良きドタバタ少年マンガとしての魅力、そして主人公・ハル先輩のゲスっぷりに、人々は歓喜したのだ。キルコさんKawaii!
だから次第に掲載順が後退していき、怪しい雰囲気が流れ始めても、僕らは悲しくなんかなかった。最後の最後まで、キルコさんは面白かった。最終3巻の描き下ろし最終話など涙なくしては読めない。「ジャンプLIVE」にて復活と聞いて感激した。打ち切られたことも忘れ、集英社に一生ついていこうとすら思った。
そしてすべては終わった。だが僕らは忘れない。キルコさんという素晴らしい漫画があったことを。ありがとうキルコさん。さようならキルコさん。また会おう、キルコさん……ッ!
それはそうと、平方先生の新作をお待ちしております。
http://www.s-manga.net/book/978-4-08-870720-4.html
【帰ってきたっ!】ジャンプLIVEにてキルコさん復活に喜びの声【新米婦警キルコさん】 - Togetter
10位
▽ 山本周五郎、望月ミネタロウ『ちいさこべえ』(1) (2)
山本周五郎『ちいさこべ』を、望月ミネタロウが現代劇として漫画化する……とあっては、面白くないわけがない。
実家の工務店「大留」が焼け、両親を亡くした若頭領が、再建を誓う。原作では、多くを語らないが気持ちのいい人情味あふれる主人公、という立ち位置だったところを、平成の世に置き換えたとき、その人情と意地はどこまで通用するのか。筋は同じでも、雰囲気は異なり、果たしてどのように着地するのかとても楽しみです。
一方で、本作の大きな魅力となっているのが、望月ミネタロウさん独特の絵柄とコマ割、そして描写です。特に人物画が抜群、セリフをしゃべっていても口は閉じている、大きな動きのある絵は描かれない、にも関わらず静止画とは思えぬ「動き」が見えてくるようです。カメラワークも見事。平成でありながらレトロな空気もあり、それがまた「現代における人情と意地」というテーマと呼応していきます。
『バタアシ金魚』や『ドラゴンヘッド』といった名作を生み出してきた作者が、山本周五郎を通して何を描くのか。読まない手はありません。
9位
▽ 施川ユウキ『オンノジ』
2013年は施川ユウキ先生ファンにとって特別な年だったと言えるでしょう。何しろ久々の新作としていきなり『オンノジ』『鬱ごはん (1)』『バーナード嬢曰く。』の3作品が同時に刊行し、かの名作『サナギさん』が「Champion タップ!」と「もっと!」で連載再開。そして本作『オンノジ』が、宝島社「このマンガがすごい!2014」オトコ編と、フリースタイル「このマンガを読め!」の両方、そろって9位にランクイン。時代が来たな!
突然、人がいなくなった世界で、ひとり残された少女・ミヤコが、記憶を失いながらも、生活していく……というシリアスSFのような設定でありながら、そこはさすがの施川ユウキ先生、徹頭徹尾くだらないことを考えたり言ったり実行したり。『サナギさん』的シュールギャグ4コマを、シリアスSFの舞台で転がしていく、そんな物語です。途中でフラミンゴになってしまった少年・オンノジと出会い、やがてふたりは冗談のような結婚生活を始め、誰もいない、死んだ世界で少しずつ何かが変わっていきます。世界が終わっても、ふたりは変わっていく。それは希望であり、絶望です。
終わった世界で御の字の未来を得るためにできることを、このシュールな4コマ漫画は教えてくれます。ゲラゲラ笑いながら、誰もいない世界を走り続けて、御の字の未来へ。世界は終わっても、なお美しい!
オンノジ | 秋田書店
http://tokyomangalab.com/?interviews=shikawa-yuki
施川ユウキ『オンノジ』、絶望と希望と、御の字の未来 - From The Inside
8位
▽ 三部けい『僕だけがいない街』(1) (2) (3)
2013年最大のサプライズ! 超良質サスペンスです。今すぐ読め、今すぐにだ!
なかなか連載を勝ち取れない青年漫画家の主人公・藤沼悟には、ある超能力があった。周囲で何か事件や事故が起きると、時間が少しだけ巻き戻る「再上映(リバイバル)」。自身でもコントロールが効かないその能力で、したくもない人助けをし続けてきた藤沼は、ある日、幼少時代に身の回りで起きた連続殺人事件の話を母から聞く。やがてそれが現在の彼らの生活にも影響を及ぼし、藤沼は真相を暴こうと動くが……。
……という1巻が丸ごとプロローグであり、2巻は一気に小学生時代までタイムリープして、連続殺人事件そのものを食い止めようと奮闘する話に。さらに3巻では再び現代に戻って、今度は逃亡劇が主体となっていく。1冊1冊で、大きくその有り様を変えるダイナミックな物語は、いつしか読む者を興奮させます。事件はいくつもの糸が絡み合って複雑に描写されるため、常に真相へと辿り着けそうで辿り着けないもどかしさがあります。こうした深みのある丁寧なストーリー展開や、平穏な街で殺人鬼が人を殺し続けるというモチーフ、そして藤沼の主人公としての思考などは、どこかジョジョに影響を受けているようにも思えます(事実、作者はかつてジョジョのアシスタントを務めています)。
現在の藤沼をサポートするバイト先の同僚女子高生・アイリや、連続殺人事件の最初の被害者であった少女・雛月といった魅力的な登場人物たちも本作の見所のひとつです。が、最も素晴らしいのは、やはり主人公である藤沼その人。こんなにもかっこいい主人公、久しぶりです。けして人付き合いが得意ではない彼が、連続殺人事件の犯人として逮捕されてしまった「ユウキさん」にかつて教えられたことを守って、人と向き合い、人を助け、ユウキさんの無実を証明しようとする姿は、あまりにもかっこいい。本作は、ヒーローとは何かを問う物語でもあるのです。
7位
▽ 牛帝『同人王』
かつてWebコミックとして発表されていたときに、この作品に気付かなかった自分を恥じます。
取り柄など何もない、漫画家としての才能も否定された、そんな主人公・タケオが選んだのは「全オタクがヌくエロ同人誌を描いて、同人王になる」という道だった。あっ、ひどいあらすじだ。でもだいたいこういう話です。
タケオは駄目です。本当に駄目です。同人誌を勢いで1000部刷ってしまい、1部も売れずに失意のどん底へ。そうして自殺しようとする彼を世界へとつなぎ止めるのは、ひとりの女性でした。彼女もまた同人作家。ペンネームは「肉便器先生」。圧倒的人気を誇る壁サークル主宰のエロ同人作家である彼女は、常人には理解し得ない信念を持つ異端者であり、絶望を知り、そして世界の美しさを知る者として、タケオを同人王にすべく導きます。
荒々しい絵柄と、悩みながら描いたことがありありと伝わる混迷のストーリー展開は、この作品の価値をなんら毀損しません。創作の苦痛と、才能という名の絶望と、練習の意味と、立体という視点と、世界の美しさが、丸ごと描かれます。これは世界の理を描いた本です。登場人物はだいたい全裸だけど。
狂気と欠落を抱え、駄目な生き方をしながら、それでも創作し続けるすべての人への、愛にあふれた漫画。それが『同人王』です。
6位
▽ 町田洋『惑星9の休日』
またひとり、恐ろしい才能が生まれました。漫画を読んでいて本当に良かったと思います。
Webコミックサイト「電脳マヴォ」にて突如、短編を公開したと思ったら、なんと祥伝社から単行本描き下ろしでデビュー。このエピソードだけで、この作品と作者の異常さが分かると思います。
辺境の星「惑星9」の日常を描いた8つの短編から成る本作は、作者独特のクールな絵柄と描写に支えられ、その星のさまざまな姿を僕たちに見せてくれます。SFあり、クライムストーリーあり、ラブコメあり、夢の中のような物語あり。淡々と、美しく、柔らかく、心を打つエピソードばかりです。きっと星新一が好きな人はハマるはずです。かわいい女の子も出てきます。おっさんしか出てこない話もあります。みんなみんな、この星で生きている。ふわふわしていて、カラッとしていて、笑ってしまうような、泣き出したくなるような、そんな1冊です。
5位
▽ 阿部共実『空が灰色だから』(4) (5)
毎週木曜日になると、阿部共実の短編が読めるという日々。あれは夢か何かだったのではないかとふと思います。
心がざわつくオムニバス・コミック『空が灰色だから』は、ある日突然、最終回を迎えました。実にあっさりと、何の未練もないように。それはとてもこの作品らしくて、毎週木曜日になると「ああ……もうチャンピオンに空灰は載ってないんだな……」と寂しく思ったものでした。
1-3巻に負けず劣らず、この最終2冊も阿部共実ワールドは炸裂しています。それどころか、それまでの作品の「セオリー」を利用した、セルフパロディ的な展開すら登場し始めます。3人組の女の子の他愛も無いコメディ回かと思ったら、途中でいきなり自意識の沼へと落ちていったり。ダークな物語へと転がり落ちていったら、オチでいきなりコメディに戻ったり。あまりにも美しいエピソードと、あまりにも救いの無いエピソードが綯い交ぜとなって、ただひたすらに毎週投下され続けていく。これを奇跡と言わずに何と呼ぶのか。
世界は灰色で、僕らは自意識の沼へと落ちていくけれど、ときに美しい光も見える。黒と白が混じり合って、灰色であり続ける。こんなにも素晴らしい作品を生み出してくれた天才・阿部共実は、本作を終了させ、新境地をひた走っています。新作の続きを待つ間、何度でもこの作品を読み返そうと思います。
空が灰色だから 第4巻 | 秋田書店
空が灰色だから 第5巻 | 秋田書店
阿部共実『空が灰色だから』4巻&『大好きが虫はタダシくんの』のディープ・アシッド地獄 - From The Inside
阿部共実『空が灰色だから』5巻。完結。まあ別にどうだっていいんだけど - From The Inside
4位
▽ シギサワカヤ『ヴァーチャル・レッド』(3)
何もかもが分からない1巻。真実が暴かれる2巻。そうして、すべて終わってしまった者へのレクイエムが、最終巻であるこの3巻でした。
赤い仮想のヴェールの向こう側では、人は死に、すべてが終わるだけ。そこには何の意味もなく、しかし遺された者は意味がなければ生きていけない。そうやって死を意味付けて、しかしそうまでして生きることに、何の意味があるというのか。
妻であった女性・律夏の記憶を少しずつ浮かび上がらせて、主人公・藤井はひとつひとつ、苦しみながら、のたうち回りながら、その意味のかけらを集めて回る。緩く血を流しながら、最後にたったひとつのちっぽけな真実を得て、どうにか薄く笑うことができる。真っ赤な世界に希望はない。それでもそうやって笑うことができるのでしょうか? 僕にはまだ分かりません。いずれ分かるのでしょうか。「意味があった」と笑える日が来るのでしょうか……。
冷静な文章が書けない……読み返すたびに泣いています。墓まで持っていこうと思います。
『ヴァーチャル・レッド』3巻(2013年9月30日発売 ※書籍扱い) - シギサワカヤBlog
シギサワカヤ『ヴァーチャル・レッド』3巻。完結。生と死と後悔 - From The Inside
3位
▽ ながいけん『第三世界の長井』(1) (2)
ながいけん復活(しかもかなり大変な角度で)。
『神聖モテモテ王国』のながいけん閣下が復活して描き出したのは、謎のヒーロー・長井が、いろいろなエクリチュール・アンカーで様々な設定を付与されつつ、博士にこき使われながら、地球を侵略せんとする宇宙人たちと戦ったり戦わなかったりして、それを自称「元・神」の少年が突っ込み続ける、という漫画でした。なに言ってるか分からないですよね。僕も分からないです。でもこういう漫画なんだよ、仕方ないだろ。
長井らの設定を決める多種多様な「アンカー」は、その名の通り僕らがよく知る2ちゃんねるの「安価」とよく似ていて、担当編集者やら他の漫画家やらよく分からない誰かやらがどんどんアンカーを追加していっているようです(少なくともそう読み取れます。事実かはともかく)。それらは作中に反映され、実際にアンカーの通りに長井や周辺の人物、宇宙人らが振る舞います。
『主人公は正義を愛し平和を慈しむ選ばれた勇者』『主人公は博士の命令でたった一人で世界を守らされる』『主人公の好きな歌は「サンタ・ルチア」』『博士は頭にツノが生えてる』『主人公の武器は少し大きめの石 武器名「リトルラージストーン」』『長井が失敗すると「KOEI」と出る』『主人公は急にティッシュ箱の構造にムチャクチャ興味を持って我を忘れてその構造の解明に取り組む(解説付きで)』『ラーメン星人、必殺技は「実写版デビルマン」』『主人公は以前泣いて馬謖をメッタ斬りにした』『火山噴火星人、必殺技は「わしはゆたかな大地になる」』(以上アンカーの一部)
これらはギャグとして一応機能してはいるのですが、実際に宇宙人の攻撃はヘリコプターに当たって墜落させたりしており、笑えません。というか長井をはじめ全キャラ徹頭徹尾、意味が分からないので、ギャグ漫画として笑っていいのかよく分からないというか、何というか、たまに怖くなります。
笑えます。とても笑えます。でも、世界はデタラメだということに気付ける、極めて恐ろしい漫画でもあります。3巻まだですか。ちゃんと完結させてください……お願いします……。
ながいけん「第三世界の長井」 | ゲッサンWEB
『第三世界の長井』考 [3N] - はじめに - 献辞
ながいけん『第三世界の長井』を、物語の終わりと解釈して読む - From The Inside
2位
▽ 吾妻ひでお『失踪日記2 アル中病棟』
大傑作。
日本漫画史に残る『失踪日記』から8年、ついに続編です。前作終盤で描かれた「アル中病棟での入院生活」をより詳細に描写した本作は、ちょっとだけ頭身が上がって、さらに軽やかに、ポップに、そしてディープに「吾妻ひでおの見た世界」を表現することに成功しています。
アル中病棟に入院している患者たちは、一癖も二癖もある、などという生温い表現ではとても収まらず、吾妻自身もまた、シャレにならないほど見事なアル中でありながら、それらをすべてクールに、客観的に描写します。何もかも笑えないのだけれど、すべてきちんとギャグになっているという事実に気付いたとき、僕らは吾妻ひでおという漫画家の底知れぬ才能に震えるのです。そしてこう思うでしょう。「絶対アル中にはならないぞ!」と。
ここに描かれていることすべて、一切合切、本来は笑えません。笑えないエピソードしか無いと言ってもいい。それでも、そのすべてがギャグ漫画として成立している。これを描くことができるのは、世界で吾妻ひでお1人ではないでしょうか。ラスト3ページのあまりの素晴らしさには、もはや声も出ません。あまりにも見事です。
1位
▽ いがらしみきお『I【アイ】』(3)
別格。
2011年も、2012年も、そして今年もこの作品が圧倒的でした。
最終巻です。ここには神様が描かれています。真っ暗な青空の果てに、確かに。この漫画を読めて良かった。本当にありがとうございました。
http://www.ikki-para.com/special/i/
http://www.ikki-para.com/comix/i.html
見ればそうなる。いがらしみきお『I【アイ】』完結 - From The Inside
番外
コミックス未発売作品ベスト1:阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』
『空が灰色だから』を終了させて、阿部共実が描き始めたのが、秋田書店「もっと!」連載の本作です。第1話は天真爛漫な中学生のちーちゃんが、友人たちに囲まれて楽しい日々を送るという、ほんわかコメディなお話です。でもこれを描いているのは阿部共実だ。この人がただの「よつばと!」もどきな作品を描くわけがなかったんだ! 完結は2014年春の「もっと!Vol.6」にて。ああ、早く読みたい。阿部共実は天才だ。まさか、こんなとんでもないものを描いてしまうなんて。
Webコミック作品ベスト1:町田洋「青いサイダー」
静かで渋い「夜とコンクリート」も、爽やかな悲しさに満ちたメディア芸術祭新人賞受賞作「夏休みの町」も素晴らしいのだけれど、とにかく本作「青いサイダー」はあまりにもすごすぎて、とんでもない才能だと心底震えました。少女が幻視したイマジナリーフレンドの正体、過ちを犯した男の長い長い年月を経た歪んだ贖罪、大人になることへの緩やかな肯定……。圧倒的です。おそらくはこの辺りの作品が収録されるであろうコミックスも2014年2月に出版される模様です。楽しみですね!