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From The Inside

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素直になれないお嬢さまとクールな変人の優しい恋物語。クール教信者『おじょじょじょ』

おじょじょじょ (1) (バンブーコミックス 4コマセレクション)

おじょじょじょ (1) (バンブーコミックス 4コマセレクション)

「定番」は、ときに使い古された「ベタ」になるけれども、一方で多くの人に愛され続けてきたからこそ「定番」になるわけで、料理の仕方で最悪にも最高にも成り得るものです。定番の素材を上質な作品に仕上げられるかどうかは、料理人の腕の見せ所といったところでしょう。

クール教信者という漫画家は、その点において、おそらく現代最高峰の料理人のひとりです。氏は本作「おじょじょじょ」において、創作の世界における古典設定のひとつ「お嬢さま」を真っ正面から料理し、最高の作品に仕上げています。

金持ちをこじらせて孤立するお嬢さま・地獄巡春は、転校先にてある変人と出会います。無口で時代錯誤ゆえに孤立する変人・川柳徒然。地獄巡さんは周りを庶民と見下しながら生活しつつも、そんな自分のことを唯一いやがらない川柳君とよく話すようになります。素直になれず高飛車なお嬢さまであり続けてしまう地獄巡さんと、口数は少ないけれど常にストレートに接する川柳君は、対照的な存在として、不思議な縁を結んでいきます。

何もかもがベタです。地獄巡さんはツンデレの一種*1で、テンプレートな悩みを持ち、川柳君の素直でストレートな一言に救われます。ベタベタで甘々です。でもまったく陳腐ではない。クール教信者の「萌えジャンル・設定をいかにうまく料理するか」という才能が存分に発揮された結果、1冊を通してパーフェクトなフルコースを堪能できます。

……ところで、本作のレビューの多くは地獄巡さんお嬢さま可愛いという話ばかりなのですが、実際のところ本作の最大の萌えキャラは川柳君です。

地獄巡さんがツンデレの一種であるのと反対に、川柳君はいわゆる「素直クール」の一種であるように、僕には見えます。素直クールはもともとツンデレの反対の概念としてふたば☆ちゃんねるにて考案・提唱された萌え設定、新ジャンルです。明確な定義があるわけではありませんが、概ね「素直でストレート」「無口・無表情だけど親愛を隠さずに表現する」「常時素直かつ常時クール」といった特徴が一般的です。川柳君は、この素直クールの範疇に入るのではないか、と考えます。この点に着目する一番の理由は、作者が「クール教信者」だからです。作者はもともと素直クールを始めとした新ジャンルものにハマって、その結果「クール教信者」の名でネット上で活動するようになりました。つまり「おじょじょじょ」とは、氏が数年のときを経て、商業出版のフィールドで、氏なりの「ツンデレお嬢さまと素直クール変人少年の恋物語」を実演した結果なのではないか……。そう考えると、地獄巡さん以上に川柳君に萌えてしまうこの感情も仕方ないというもの!

ただし、川柳君のキャラクター造形はなかなかに複雑です。「おじょじょじょ」本編は地獄巡さんの視点が多く、川柳君が何を考えているのかは見えづらい構成を採用しています。しかし、いくつかの幕間の短いエピソードにおいては、川柳君の思考が描かれます。その内面は、分かりやすい素直クールな外面からは意外に思えるほどにナイーブです。初期段階で地獄巡さんを「高嶺の花というヤツだな」などと考えているのはあまりにも意外ですし、ものすごく萌えます。自分の会話が人とずれていることを自覚し、そうまでして人と関わる必要は無いと受け身になり、そうやって生きていくのだろうという諦観を抱えていた川柳君にとって、誰に対しても(見下すという意味で)平等に接し、しきりに(他の人が構ってくれないから)話しかけてくる地獄巡さんの存在は、奇跡だったのでしょう。それは、地獄巡さんにとって川柳君が「素直になれないお嬢さま」として接しても嫌がらなかった唯一の存在であったこととの、奇跡的な噛み合わせです。

「ツンデレと素直クールの恋物語」という設定を、丁寧に味付けし、適切な形で料理する。そうして生み出された世界は、とても優しく、上質です。クール教信者だからこそ生み出せる妙味だと感じます。

クール教信者、最新作「おじょじょじょ①」9月6日(金)発売!

*1:地獄巡さんはいわゆる「時間と関係性の変化によって振る舞いが変わる」タイプのツンデレではなく、「ツンツンした外面と、素直になれない内面の二面性」タイプのツンデレの方である。