阿部共実『空が灰色だから』4巻&『大好きが虫はタダシくんの』のディープ・アシッド地獄

4巻と作品集が出たよ。ふんふん。

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まずは4巻。今回はこれまでと違って、突き抜けたような分かりやすいダークな話はなく、その分「もうどうしたらいいんだよこれ……」みたいな落ち込む話と、「なんだよこれ最高じゃないか……」という話が数多くのコメディの中に埋め込まれるという、よりディープな感じに進化してしまっています。ほんとこのマンガどこまでいくんだろう……。

コメディっぽい3人組のお話かと思ったらいきなり自意識の沼に落ちていく「マシンガン娘のゆううつうつうつうつうつうつうつうつうつうつうつうつうつ」、ページをめくるたびに状況が二転三転して一番見たくなかったラスト=真実へとたどり着く姉と弟の物語「膨らんだ」、いじめられっ子の小学4年生男子に発破をかける“アネゴ”な中学3年生女子の後味最悪鬱回「名乗る名もない」と、絶妙なバランスで人を落ち込ませる才能ありすぎではなかろうかという品揃えです。どれも下校途中の住宅街の道や公園があまりにも生々しくて、息苦しさが競り上がってきます。分かりやすい病気っぽさが鳴りを潜めた分、凶悪さは増している印象ですね。

一方で、可愛い子とブスな子の友情物語「世界一我儘な私から世界一ブスなお前に」、自殺した幽霊の屋上談義「初めましてさようなら」と、空灰屈指の神回が2本も入っているのも特徴です。4巻目にして円熟の域に達しつつあるあべともワールドに酔いしれましょう。

で、もう1冊、作品集『大好きが虫はタダシくんの』も出ました。こっちが大問題だよ!

冒頭は空灰コミックス未収録だったカラー4Pエピソード「灰色」と「乙女心」。いずれもカラーだけどベースは全部灰色で、だからこそカラフルな色が映える名作です。

続いてWebサイト「日刊!浦安鉄筋家族 THE WEB」で連載されていた「ドラゴンスワロウ」全15話。ただひたすらくだらないことをダベリ続ける女子高生2人という夢のようなお話です。

本も半ばを過ぎたところで登場するのがデビュー読み切り「破壊症候群」。少年マンガっぽいスピード感が意外な感じ。終盤の見開き描写のあたりは新人離れしすぎだと思います。

とまあここまでポップな作風で攻めておきながら、ラスト3話がひどい

まずは週刊少年チャンピオンで空灰の休載後に先行掲載された「あつい冬」。圧倒的なまでに気がふれた漫才マンガです。初めて読んだときは鳥肌が立ちました。たぶん、少年誌に載せていいマンガではありません。

続いて描き下ろし「デタジル人間カラメ」。読んでて頭がおかしくなりそうでした。まるでマンガを描き始めたばかりの人のような横向きばかりの拙い絵と、ぱっと見いろいろ伏線でつながっているように見えてその実まったく何もつながっていない支離滅裂さがひたすらズレながら展開されるアシッド・ストーリー、そして完全に崩れ落ちるラスト1ページ。絶対にメジャー誌ではできない、こういう場所でしか発表できないドラッギーな作品でした。

そして最後が「大好きが虫はタダシくんの」。ネットで公開され各所で大騒ぎになった、著者の最も有名な作品ですね……。紙で読んでもやっぱりキツかったです……。正直、いまだに中盤以降はコマを直視できません。

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=19369664

「空が灰色だから」のコミックスは、1冊1冊に載せる話や順番にこだわりが見えて、さながらアーティストのアルバム作品のようです(雑誌掲載順とは微妙に変えて、1冊の中で順番を入れ替えたり、収録コミックスを交換していたりします)。だとすれば本作品集は、いわばインディーズ時代の作品に未公開新作を加えた企画盤のようなもの。荒削りなポップチューンを中盤まで展開しながら、終盤に差し掛かったところでアシッドな新作2曲で思いっきり頭をぶん殴って、インディーズ時代の最大の名曲で〆る、といったところでしょうか。

今年も阿部共実は絶好調です。まだまだ楽しませてくれそうですよ!