創作、才能、練習、立体、世界。牛帝『同人王』

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本作は、かつてアマチュア漫画投稿サイト新都社にて連載、後に加筆修正されて電脳マヴォで再連載された、あるWebコミックの書籍版です。やることなすことすべてダメ、漫画家志望でありながら漫画の才能すら否定された主人公・タケオが、エロ同人誌を描いて「同人王」となるべく歩んでいくという、非常に人に勧めづらい物語ではありますが、激烈に面白かったとしか言いようがなく、ただただ打ちのめされています。

ここには、創作の苦痛と、才能という名の絶望と、練習の意味と、立体という視点と、世界の美しさが、丸ごと描かれています。タケオの葛藤はすべての創作者に対する劇薬として機能し、彼の導き手となる超人気同人作家・肉便器先生の狂気は見るものの眼球と脳髄を焼き切ります。

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タケオはどうしようもない感じではありますが、それでも少しずつ前に進んで、やがて世界を発見します。肉便器先生はファンタジーすぎるほどにタケオの味方であり続けますが、同時に狂気と欠落を抱え、誰かを救うという行為への依存性を世界にさらけ出します。2つの世界がぶつかることで、創作が生まれていくのです。

絵はお世辞にもうまいとはいえないし、テーマは万人受けするものではありません。それでも、この漫画は素晴らしい。壁にぶつかって、欠落を抱えて、どうしたらいいのか分からないけれども一歩ずつ前に進んで、世界の理を知るということ。それがたとえ「エロ同人を描いて同人王になる」というものだったとしても、その歩みは尊く、心を打ちます。

これが漫画なんだ、と心から感じます。これは、とても優れた、世界の理を描いた漫画です。

電脳マヴォ:牛帝 同人王