今年は2012年ほど映画が見られませんでした。残念。来年はもっと見たいです。
10位
▽ 高畑勲『かぐや姫の物語』
地上は穢れている。そんな穢れているところに行きたいと言うのなら、その生を全うせよ。この世界は、いいとこ取りなどできない。……要はそういうお話です。
この世界はクソッタレでしかないので、それがいやなら地上に降りたいなど言うなという大変ありがたい教えであり、問答無用で回収していくあちらさんとしても「今さらなに言ってるのンモー」みたいな感じであるのでしょう。迎えにくるシーンの音楽が完璧に狂っていて最高でした。
あと女童が完全にパタリロで最高だなと思ってたら最後まで美味しい役回りでしたね。女童のためにある映画ですよ!(言い過ぎ)
9位
▽ レア・フェネール『愛について、ある土曜日の面会室』Qu'un seul tienne et les autres suivront
2012年12月15日公開作品ですが、一応。序盤は少し退屈な部分もあるのですが、終盤、まったく別の境遇、まったく別のストーリーを負った3人が、同じ日の同じ時間に刑務所の面会室へと向かう、そこへとすべての伏線が収斂されていく様に鳥肌が立ちました。
刑務所の面会室という特異点を境界として、三者三様の、塀の「内」と「外」が可視化される。塀の外もまた、みな等しく牢獄の如し。監督、本作を撮影したのは28歳のときだそうです。とんでもない才能ですね……。
https://itunes.apple.com/jp/movie/ainitsuite-aru-tu-yao-rino/id659312412?uo=4&at=10lc52
8位
▽ オラ・シモンソン、ヨハネス・シェルネ・ニルソン『サウンド・オブ・ノイズ』Sound of Noise
ショートムービー『Music for One Apartment and Six Drummers』を長編映画としてふくらませた本作は、身の回りのものを楽器にして演奏してしまう6人のドラマーによる「音楽テロ」と、それを追う音楽嫌いの刑事というクライム・ムービーです。しかし、音楽で世界を変えようとする6人と、音楽嫌いの刑事は、対立すると同時に「権威ある立派な音楽を壊したい」という思いを共有します。
音楽嫌いの刑事は6人の楽器として使用したものからの音が聞こえなくなります。これを利用し、刑事は6人のリーダーを人質として、街中へと伸びる高圧電線による演奏をメンバーへと迫ります。そうして奏でられる最後の音楽によって、刑事の世界からは音楽が消失する……。
立派な音楽などなくても、世界は最初から音楽そのものであった、ということに気付ける素晴らしいサウンド・ムービーです。
7位
▽ ウディ・アレン『ローマでアモーレ』To Rome with Love
今年もウディ・アレンは絶好調でした。バルセロナ、ロンドン、パリときて、今度はローマ。相変わらずの最高B級っぷりです。
ローマを舞台とした、まったく別の4つの物語が並行して描かれる本作は、9位の『愛について、ある土曜日の面会室』とは異なり、それぞれのエピソードが交わらずに終わります。そもそも時間のスケールがおかしくて、1日の間のエピソードもあれば、何ヶ月も経過しているであろうエピソードもあります。にも関わらず、エピソードが行ったり来たりしても、違和感なく映像を見続けていられる。ウディ・アレンの腕なくしては、こうはいかないでしょう。
「人生にはいろいろある」と、ある登場人物は言います。そう、人生にはいろいろある。いろいろある人生を、たしかにそのように世界はできていると納得させつつ、ぶっ飛んだコメディを(しかも4つ同時並行で)展開する。「いろいろある」ということを、否応無しに納得せざるを得ません。
いろいろあって、そして底抜けに笑える、人生のようなフィルム。それがウディ・アレンの映画なのです。
6位
▽ デヴィッド・ゲルブ『二郎は鮨の夢を見る』Jiro Dreams of Sushi
東京・銀座の地下にあるお鮨屋さんの名店「すきやばし次郎」初代店主・小野二郎を中心に据えたドキュメンタリー。
監督はアメリカ人。外から見た鮨職人とはいかなるものか。美しい鮨の数々の映像はやがて、二郎の2人の息子の姿へとスイッチしていきます。息子たちはいずれも、偉大すぎる父の仕事をいかに受け継ぎ、乗り越えていくかと悩みます。メトロポリタン・オペラの総帥という偉大な父をもつ監督が、2人の息子に自らを重ね合わせていることは想像に難くありません。
そんな息子たちの葛藤を背に、二郎は今なお「良い仕事」を追求し続けます。職人の仕事の果てとは。その技術の継承はいかにして可能なのか。鮨を通して見えてくるのは、優れた仕事を追い求める者に立ちはだかる、大きな困難そのものです。
5位
▽ グザヴィエ・ドラン『わたしはロランス』Laurence Anyways
男はある日、告白する。本当は女になりたかったんだ。女は苦悩し、やがて受け入れる。愛さえあれば乗り越えられる……はずだった。
グザヴィエ・ドラン監督、なんと23歳のときの作品です。信じられん……。映像も音楽もばっちり(Moderatの「A New Error」がかかるタイミングは鳥肌もの!)。ただひたすらに「愛と失敗」を追い続けて、2人の苦悩まみれの10年を描きます。これはもはや執念といってもいい。「愛さえあれば乗り越えられる」という言葉の欺瞞を徹底的に暴きたてる、底冷えするようなフィルムです。
うまくいったかと思えばすぐ破綻する。そうしてまた再会して、そして破綻して。愛とはつまり、そういうことのようです。
4位
▽ 白石和彌『凶悪』
新潮45のノンフィクション『凶悪 -ある死刑囚の告発-』を原作とした物語。死刑囚がジャーナリストに打ち明けた余罪と、その首謀者「先生」の存在。ジャーナリストは真相を暴くべく深淵を覗き、そしてやがて凶悪の深淵に覗き返されている。
とにもかくにも、死刑囚=ピエール瀧と、先生=リリー・フランキーが圧倒的すぎて、この2人の圧倒的な存在感を楽しむためだけにこの映画を観てもまったく損をさせません。こんなにも魅力的な「凶悪」を、僕は見たことがない。ケラケラ笑いながら人を殺す2人の姿は、普段の2人のようでもあり、役が憑依しているようでもあり……。映画を観ている者もまた、深淵に覗き返されている。
人が殺されているシーンで、思わず笑いが漏れてしまいそうになる。その凶悪さは誰のものか。極めて凶悪な映像作品です。
3位
▽ 若松孝二『千年の愉楽』
昨年末に亡くなられた若松孝二監督の遺作。飲み屋でのケンカ仲間だったという中上健次の同名小説を映画化!
紀州の“路地”に住む高貴で穢れた「中本の一統」の血を受け継ぐ男たちの人生を、路地の産婆「オリュウノオバ」が見つめるという筋書きの本作は、どこへ行こうと最後は路地へと帰るしかない呪いに満ちた、濃密で耽美な映像に仕上がっています。高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太の3人の男があまりにも美しくて、男の僕が見ていてもクラクラします。これが短く生きて華やかに散る血の美しさか。
もう若松監督の映画が見られないかと思うと、悲しくてたまりません。今年は別の場所で初期傑作『胎児が密猟する時』も大画面で観る機会に恵まれました。まだ観ていない作品を、ひとつひとつ辿っていこうと思います。
2位
▽ 園子温『地獄でなぜ悪い』
無料動画TV | ドラマ・アニメ・映画の無料見逃し動画配信の視聴方法まとめサイト
素晴らしい。これは本当に素晴らしい! 園子温監督が地獄の姿をコメディという形でスクリーン上に再現してくれました。最高!
ヤクザの組長・武藤は、もうすぐ出所する妻の夢をかなえるため、逃げた娘・ミツコをつかまえて、彼女を主演とした映画を撮らなければならなかった。成り行きから撮影を一任される、映画の神を信じる映画青年・平田は、ミツコの逃亡劇に巻き込まれた男・公次と、ミツコに思いを寄せる武藤の対立組の組長・池上を交え、殴り込みをそのまま映画として撮影するという暴挙に出る。
まさしく地獄。映画撮影という名の殴り込みは、頭や腕が舞い、血しぶきが降り注ぐこの世の地獄である。そんな地獄の、なんと笑えることか。始まりから終わりまで、終止爆笑し続ける映画などそうそうありません。この世こそが地獄であり、しかし「地獄でなぜ悪い」!
クソッタレな世界そのものを笑い飛ばすメタ映画として、作り物を愛し続ける映画賛美として、そして「笑える映画こそが素晴らしい」というエンターテインメントとして、あまりにも圧倒的です。
1位
▽ レオス・カラックス『ホーリー・モーターズ』Holy Motors
『ポンヌフの恋人』を初めて観たときの衝撃を、よく覚えています。ああ、レオス・カラックス監督の新作が観られるなんて。
人生とは映画である。さまざまな人生を「アポ」と称して仕事としてこなしていく主人公・オスカーの本当の姿はどこにあるのか。カイリー・ミノーグ演じるかつての恋人ジーンとの30分だけが本当の姿だったのか、それともあの悲鳴すらも「アポ」だったのか? 人は演じなければ生きてはいけない。このクソッタレな地獄を、引きずり戻されるか何もない場所へ行くかの二択を迫られる高貴で穢れた世界を、凶悪がこちらを覗き返し、愛では何も解決せず、あまりにもいろいろなことが起きすぎるこの人生を、演じなければ生きていくことなどできはしない。そうしていつか自分が演じているのかどうかすら分からなくなる。その姿は美しい。この映画はあまりにも美しすぎる。
この理不尽な生を、そうやってしか僕たちは生きることができない。エンド・クレジットに登場する写真は、カテリーナ・ゴルベワ。つまりはそういうことです。人生とは、映画なんだよ。