阿部共実『空が灰色だから』5巻。完結。まあ別にどうだっていいんだけど

まあ別にどうだっていいんだけど

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最終巻です。大好きな作品でした。最後の最後まで本当に素晴らしかった。ありがとうございました。

コスプレ友情物語「不謹慎なそれ」、やる気なんてスピリチュアルなものに頼るのはやめようという高潔な寓話「おはようございます! 自分やる気あります!」、太陽目指して飛んで羽がとけてなくなるまで「飛んで落ちて死んで」、小学生男子にときめくダメフリーター「僕と交流しよう」、許されているのはずっと私の方「私を許して」、熱血弁当完食ラブコメ「負けず嫌い」、コメディの裏で1人ずつ減っていく「さいこうのプレゼント」、お前っていくつだっけ?「お兄ちゃんが」、トランシーバー効果だよ「マルラマルシーマルー」、潔癖性の恋「私のルール」、金閣寺の罪と罰「歩み」。以上11編。

前半はコメディが多いのですが、その中で重いのが「飛んで落ちて死んで」。歴代エピソードの中でもトップクラスの素晴らしさだと思います。日陰の虫が、太陽のような明るい友達のそばまで飛んでいくんだけど、羽がとけてなくなって、飛んで落ちて死んでしまう。そういうお話です。読んでいてこんなにも「やめてくれ」と思う物語は、そうないでしょう。まあ別にどうだっていいんだけど。いやまあ別にどうだっていいってこともないか。

異色なのが表紙にもなっている「さいこうのプレゼント」。ヒロイン黒絵は大好きな先輩のためにプレゼントを毎日持ってくるけれど、それらはなぜか虫の湧いたお守りだったり、血のように赤いインクで書かれた手紙だったり、髪の毛の混じったクッキーだったりする。その異常さがギャグになっていて、でも実は純粋に先輩のことを想っているだけなんだ、というきれいな終わり方をします。週刊少年チャンピオンでの初見ではコメディ回かと思いました。でもよく読むと、毎日1人ずつ、先輩の周りの女の子が減っている……。すごくよくできた話ですね。よくできすぎていて気付かない人が多そう。

それまでの12ページから増えて16ページになって、さらに一捻り加えられるようになったラスト3話は、まさに集大成と呼ぶべき出来です。言い間違いを認めず発狂するところからさらに二転三転する「マルラマルシーマルー」はこれまでの本作のパロディのようでもあり、潔癖性の世界を可視化してしまった羽虫だらけの「私のルール」は本作のテーマである「うまくいかない」という世界の理不尽さを余すところなく描き出します。そして、特別なことなどなく、ひたすらに淡々と、最悪の結末を救済せずに幕を閉じる「歩み」。最終回をこんな形で描くことができるのは、本作以外あり得ないでしょう。『空が灰色だから』に相応しい、あまりにも救いのない最終回でした。

こんなにも素晴らしく、そして心を揺さぶる物語を毎週、投下してきたという事実は、もはや奇跡としか言いようがありません。でも、それも終わりました。マンガを読んできて、こういう作品に出会えて良かったと心から思います。気付けば全巻レビューしてしまいました。

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作者の新連載は3月18日発売の秋田書店「もっと!」vol.2から。

『ちーちゃんはちょっと足りない』。良いタイトルです。期待しています。

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