阿部共実『空が灰色だから』3巻。相対化される「普通」と「特別」、揺るがずに涙を流す「本物」

ただ、ひとりでも仲間がほしい。

空が灰色だから 3 (少年チャンピオン・コミックス)

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3巻です。表紙はいい年こいて魔法少女コスプレして街を闊歩する杏奈さん。どや顔やばい。

もう本当に名作すぎて褒めることしかできないのですが、3巻も素晴らしかったです。まったく無関係なオムニバスストーリー12編で構成されていますが、この3巻は随所で「普通」がテーマに据えられていることに気付きます。

  • 普通の女の子としての人生を捨て、世界に満ちた悪を倒す魔法戦士としての道を選んだ(という設定の)女性に、母は「あんたが思ってるほどあんたは社会にとってプラスでもマイナスでもなんでもないわよ。普通に受け入れてくれるわよ」と告げ(第26話「世界は悪に満ちている」)
  • 物静かな小学生の男の子に対して、熱血先生は「自然体でいていい」「子供は元気が1番」と自身にとっての「普通」を押し付けてしまい(第27話「4年2組 熱血きらら先生」)
  • 普通に学校に行ってもその先に何もないと感じる男子高校生は、幼少期に登れなかった壁の向こう側に答えがあると信じて登るけれど、その先には何もなく(第28話「歩く道」)
  • 普通と特別を都合良く使い分ける2人の友人から、自分は普通なはずなのに異常扱いされて「こんなアホ共に私の普通がおかされるなんて」と少女は憤慨し(第29話「少女の異常な普通」)
  • いつもマジメと言われる委員長は衝動に身を任せて悪いことをしてやろうとするけれど、結局マジメに生きるのが一番楽であると考えるに至ります(第32話「衝動でございます」)

このように、1冊まるごとかけて、結局「普通」も「特別」も幻想でしかないと徹底的に相対化してしまうのです。ところが、ラストに収録されている第36話「ただ、ひとりでも仲間がほしい」ですべてがひっくり返ります。

きょう気に満ちたグロテスクな絵を好んで描く主人公の少女「来生さん」は「自分は普通ではない」と考えます。そんな来生さんの「自分を解放しなきゃ」という言葉に感銘を受けた、一見すると普通の少女である「佐野さん」は、「私は私でいたいから本当の絵を描いた」と自分の“作品”を見せるのです。

ここまで「普通」と「特別」を相対化しておきながら、とびっきり、問答無用の「本物」を最後に用意してしまったこと。そして、その「本物」が誰よりも悲しみの涙を流していること。恐れと悲しみを同時に感じる、素晴らしいラストです。

阿部共実という漫画家が、信じられないくらいの才能に満ちあふれた「本物」であることは、もはや疑いようがないでしょう。現在作業中であるという短編集も楽しみです。

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