遡るラブホテルと人間の記憶。桜木紫乃『ホテルローヤル』

『ラブレス』の桜木紫乃の新刊。湿原を背に建つ北国のラブホテル「ホテルローヤル」にまつわる人間の連作モノです。

でも最初のお話「シャッターチャンス」でいきなり廃墟になっています。なにそれこわい。そこから一編ごとに、時間を遡っていくのが特徴です。2編目「本日開店」では潰れたホテルローヤルの社長が死んだあと、3編目「えっち屋」ではホテルローヤルを引き払う日……といった具合に。登場人物たちは、ホテルとは無関係だった者、ホテルを利用した客、ホテルの関係者とさまざま。ホテル自体は単純な舞台というよりも象徴のような立ち位置で、人々の時間の流れを見つめます。

これが南の方のホテルであればまた雰囲気が違ったのでしょうが、何しろ舞台は釧路。しかもラブホテル。明るくなるはずがない。話によっては「イイハナシダナー」というものもあるのですが、だいたいはジトッとしたキツい話です。単体ではハッピーエンドに見える最後の話「ギフト」にしたって、後のホテルローヤル社長が主人公なので「ハッピーエンドの先の未来」が既に分かっているという徹底ぶり。各編ではその他の話の登場人物たちの“それまで”や“それから”が間接的に語られます。人生は何が起こるか分からないし、自分の行動が誰にどんな影響を与えるかも予測できないものだなと実感できる一冊です。

一番好きなお話は残念珍道中「せんせぇ」。そういえば唯一ホテルローヤルが一切登場しなかったなと思って、あとで本書を最初からパラパラめくってたら、登場人物の“それから”が前の方の話で言及されていることに気付いて激しくヘコみました。うっうっ。