平坂読『僕は友達が少ない』11巻。完結。いくつもの間違いを抱えて、人生は続いていく

僕は友達が少ない (11) (MF文庫J)

僕は友達が少ない (11) (MF文庫J)

  • 作者:平坂読
  • KADOKAWA/メディアファクトリー
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1冊丸ごとエピローグです。おつかれさまでした!

淡々と紡がれる最後の1年

『僕は友達が少ない』という小説は、細かな章=エピソードを1冊の中に大量に詰め込むという形式で書かれてきました。それらはひとつひとつが取るに足らない残念な物語であり、ショートストーリーの集合体のようでもありました。

最終巻である11巻でもこのスタイルは継承されています。というより、これまで以上に強調されています。取るに足らない小さな物語たちが積み重ねられていきます。なんと11巻は1年以上の時間を、ものすごいエピソードで駆け抜けます。ひとつひとつの物語は、それぞれ大なり小なりいろいろあるものの、実に淡々と進行していきます。深堀りされません。主人公・羽瀬川小鷹の視点で、彼の与り知らぬところで話が進んだり解決したり解決はしないまでも何となくやり過ごされていったり、そういった物語で積み重ねられていきます。

もっと劇的な展開があってしかるべきでしょう。もっとカタルシスがあってほしいものでしょう。主人公がヒロインの問題を解決し、ハッピーエンドを迎えることを期待するでしょう。ここにはそんなものは一切ありません。

淡々と、しかし充実した形で、最後の1年は描かれます。初めてできた恋人である幸村とのエピソードよりも圧倒的に多い、隣人部でのエピソードたちが。 各章のタイトルに付けられた数字は卒業までのカウントダウン。時間は有限である。そして卒業して、彼らの人生は続いていく。間違えて、失敗して、傷ついて、うまく解決できない物事となんとなく折り合いをつけて、人生は続いていくのです。つまりこれはもはや、物語ではない。

いくつもの間違いを抱えて

かつて僕はこの作品を「正しくあろうとした末に、正しくなくなってしまうことを肯定する」物語であると評しました。

minesweeper96.hatenablog.com

11巻、エピローグにおいても、いくつもの間違いが描かれます。理科への想いを断ち切れないまま幸村の告白を受け入れる小鷹。隣人部を退部する幸村。険悪になる理科と幸村に対し何もできない小鷹。お互いを戦友と表現する小鷹と夜空。小鷹の告白を拒絶する理科と、その理科の真意に気付かない小鷹(読んでて血の涙を流しましたし、ちゃんと読んでれば真意はバレバレなのに、これ以降は一切触れられないこの間違いはものすごい凶悪さですね……)。姉の日向と近づいたが故に母親との関係を改善できず悪化させてしまう夜空(この重い話が普通に入ってくる上に、主人公であるはずの小鷹には何もできないし何もしないし特に解決もしないというのがものすごくリアル)。夜空の隠し撮りがバレてしまい怯えられる星奈(星奈だけたいした間違いをしていないのはある意味ですごい)。理科への想いを封じ込めてしまう小鷹(血の涙を流しました)。幸村より隣人部を選んでしまう小鷹。柏崎家に養子に来ないかという誘いを断り、母との関係を断ち切らないことを選ぶ夜空(これだけ大量の間違いの中でも、とびきり最上級の一番やばい間違いが最後のこれだと思います)

そうしてたくさん間違えて、その間違いの代償すら分からないままに、でもそれなりに折り合いをつけて前に進んで、卒業を迎えた彼らを、先に生きるもの=先生であるマリアが祝福する。人生は間違いだらけであり、でも間違っているからといって価値がないわけではない。それは例えば理科が得たものであったり、小鳩とマリアの関係であったり、夜空と星奈、あるいは夜空と日向の関係であったりします。とても美しく、尊い宣言です。

ほぼ全員が、何かを得られずに間違えて失敗し、しかし別の何かを得ている。そういうふうにできています。そして、いい青春だったと感じながら、卒業していく。人生は続く。

淡々と間違えて、何かを取りこぼして、でも別の何かを得て、解決できたり解決できなかったりしながら、生きていく。

とても良い最終巻だったと思います。

雑感

小ネタや伏線回収がこれでもかと描かれていました。ざっと以下のような感じでしょうか。漏れもあるかもしれません。

  • 「真の漢とは、女らしさ」。急に女性性を全面に押し出した幸村
  • 似た者同士の小鷹と理科。友情という理想への過剰な幻想
  • ポスターのもうひとつのメッセージ(これは本当に気付きませんでした)
  • 幸村の母が見かけた少女
  • eternalfriendship2
  • ステラと会ったことのなかった夜空
  • ステラと星奈、日向と夜空
  • ステラの恋人
  • メインヒロインの夜空
  • 先に生きるもの、マリア
  • 1巻の最初のエピソードだった闇鍋は実は卒業後の最後のエピソード(これは素直に上手いと思った)

そして、小鷹を(スタンガンで)現実に引き戻す役割の理科。これを最後に明示してくれて嬉しかった。以下エントリー参照。

minesweeper96.hatenablog.com

「心に残る今」と書いて「残念」というオチは、まあ、その。あとケイトのケリの付け方がやばすぎる。

最後に

たぶん何度も読み返しては血の涙を流すと思います。小鷹と理科は馬鹿だ……。でもまあそんなもんだよな……。大間違いだし大馬鹿だと思うけど、それもまた青春。切ないなあ…………。

ああああああああああああああああ(のたうち回っている)。