『響 小説家になる方法』2巻。天才を目の当たりにしてしまった人間の物語

本作は、ある変わり者の女子高生・鮎喰響が、文芸新人賞に応募条件を満たさない形で小説原稿を送りつけたことから始まる「小説マンガ」です。彼女は簡単に言えば「天才」であり、その原稿を読んだ若き編集者・花井は「革命が起きる」と確信するも、鮎喰の連絡先すら分からず奔走。一方の鮎喰は高校の文芸部に入部し、自らの才能を自覚しないまま、周囲の人間と(やばいレベルで)ぶつかり合いながら、やがて文芸部誌づくりに参加します。

一般的に、天才を描くのは困難です。読者を納得させるだけの天才性を描けるかどうかは、この手の天才を描く作品にとって生命線とも言えます。そこで、特にバトルものなどでよく根拠として使われるのが「血筋」です。ところが、この作品は、2巻でそうしたお約束自体を利用します。この仕掛け、分かる人は分かっていたと思います。僕は思い切り引っかかりました。スペリオール読みながら「ほげええええ」とか言っていました。

鮎喰の小説を読む人間は少しずつ増えていきます。読んだすべての人間に衝撃を与え、ときに人生すら変えていく。その中で、文芸部部長であるリカが、もうひとりの主人公として立ち上がってきます。天才を目の当たりにしたとき、人は何を考えるのか?

才能があり、気に入らない相手に堂々とケンカを売る「スカッとする無敵の主人公」を描いた作品、という面でもよくできた――できすぎた――作品です。鮎喰の狂犬っぷりを楽しむ、読んでいて気持ちのいいエンタメとしての側面です。それを短絡的だと言うこともできるでしょう。でも、その奥底にある、天才と出会ってしまったリカの葛藤に目を向ければ、また別の評価が見えてくるように、僕には思えます。

これは天才・鮎喰響の物語であり、文芸の世界に生きる作家や編集者たちが鮎喰響を発見する物語でありながら、同時に、天才を目の当たりにしてしまった人間の物語です。時おり描かれる、恐ろしいほど多くの感情が詰まったリカの笑顔を見ていると、凡人たる自分は胸が掻き毟られる思いに駆られます。彼女が鮎喰という天才とどう折り合いをつけて生きていくのか。楽しみです。