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From The Inside

Ubique Media Daemon

平坂読『僕は友達が少ない』9巻の激烈な面白さ、あるいは「はがない」のこれまでとこれから

激烈に面白かった…………!

僕は友達が少ない 9 (MF文庫J)

僕は友達が少ない 9 (MF文庫J)

一気に読んでしまった。そして叩き付けるようにこの文章を書いている。なので、世の中の評判的に良いのか良くないのかは正直分かりません。ただ、僕にとって、これは激烈に面白かったということを記録しておかねばならないという強迫観念に近い想いがこの文章を紡いでいます。なに言ってんだ俺。

「ハーレムもの」の極北としての『僕は友達が少ない』

『僕は友達が少ない』、通称「はがない」は、いわゆるハーレム型ライトノベルです。というか、でした。実のところ、7巻の途中までは「売れてるみたいだし読んでおかないとな……」みたいな感じでした。でも7巻ラスト数ページですべてがひっくり返りました。

主人公の羽瀬川小鷹には友達がいない。目つきが悪さや死んだ母ゆずりの金髪といった外観から、ヤンキーと間違われているためです。彼が三日月夜空という、やはり友達がいない少女と出会うところから物語は始まります。夜空は小鷹との会話の中で「友達作りを目的とした部活」の創設というアイデアを閃き、小鷹を強引に入部させて2人だけの部活「隣人部」を設立。そこへ、同じく友達がいない少女が集まってくる。隣人部で繰り広げられる、残念なキャラクターたちの日常を描く、というのが本作の基本構造です。

隣人部のメンバーは、ヤンキーのような見た目の小鷹、人とうまくコミュニケーションがとれず“エア友達”と会話をする夜空、成績優秀・容姿端麗・運動万能のお嬢様だがプライドが高すぎるため女友達ができない柏崎星奈、女にしか見えないため周囲がうまく友人関係を築けないでいる楠幸村、専用の部屋「理科室」にこもっている天才科学者の志熊理科、小鷹の妹で中二病を発症している羽瀬川小鳩、隣人部の顧問で10歳のシスターである高山マリアの6人。このうち、本編で最後に登場するのが志熊理科です。

僕はこの理科というキャラクターが登場当初から本当に大好きでした。作中で最もテンション高く下ネタを言いまくり、隣人部の日々の遊びをしっかりお膳立てしてしまうムードメーカー兼トリックスター。そのキャラクター造形にはどこか違和感がありました。

志熊理科の立ち位置は極めて特徴的です。原作1巻冒頭は、隣人部設立から少し経ったある1日のエピソードを取り扱っています。小鷹の幻覚で始まるこの最初のエピソードでは、理科がスタンガンで小鷹を現実に引き戻すシーンが挿入されます。本作で最初に(幻覚内ではなく現実で)セリフを発するのは、実は理科です。ところが、この最初のエピソードが終わった後、隣人部設立のエピソードまで話が遡ってから時系列に物語が進んでいく中で、理科の登場は主要キャラクターとしては最も遅く、なんと初登場は2巻の53ページ目です。彼女は主人公を現実に引き戻すという役目を持って最初に登場しながら、同時に物語としては最後に現れるキャラクターなのでした。

小鷹にとって理科は、見た目は可愛いのに変態腐女子であるが故に女性として見ることがない存在として扱われ続けます。一方で理科は、そうしたハイテンションの変態腐女子というキャラクターを保ちながら、隣人部のさまざまなレクリエーションのお膳立てをします(開発協力しているゲームの提供やアニメ鑑賞、映画作りの編集作業など)。そうして、いつも「楽しかったですね」と笑う。隣人部の物語は、夜空と星奈がケンカをし始め、小鷹がやれやれとそれを眺め、幸村が後ろで無表情を貫き、そして理科が楽しかったと笑う、という役割分担で終わります。理科は常に変態腐女子というキャラクターでコメディリリーフを務めるため見落としがちですが、誰よりもマジメに友達作りのことを考え、誰よりも楽しんでいました。

そして、7巻ラストで真の姿を見せます。そうか、彼女はそういう立ち位置だったのかと、読者は気付くことになるのです。

メタハーレムライトノベル

ここで主人公の小鷹についても触れておきます。彼はハーレムものの主人公に必須のスキル「鈍感」の所有者です。ハーレムものの男主人公は鈍感でなければならない。でなければ物語がすぐに終わってしまうからです。主人公は、常に女性キャラクターたちから好意を向けられており、同時にそのすべての気持ちに「気付かない」ことが求められます。こうした小鷹の鈍感主人公属性を端的に現すのが、彼の「え? なんだって?」というセリフです。周りの女性が彼への好意を含めたセリフを小声で発しても、小鷹は100%その声が「聞こえない」。それが本作のお約束でした。このパターンが極めてあからさまに多様されるため、小鷹は読者から「難聴主人公」と揶揄されるようになったくらいです。

残念だけど可愛くて個性的な女の子たちと、彼女らの好意に気付かない鈍感な主人公。『僕は友達が少ない』は、極めてテンプレートなハーレムライトノベルであった、はずでした。でも7巻、ラスト6ページで完全に覆りました。

「——『なんだって?』じゃねえよ、ばーか……」
そして理科は、唇を笑みの形に歪めながら、まるで宇宙空間のように冷たくて暗い虚無の瞳を俺に向けた。
『常にハイテンションで奇行奇言を繰り返すおかしな後輩』という道化の仮面を脱ぎ捨てた、俺の見たことがない志熊理科がそこにいた。

ここに至って、すべての欺瞞が暴かれます。科学者であり観察者である理科は、小鷹の真意を見抜くのです。

『僕は友達が少ない』というタイトルはアイロニーにまみれています。隣人部のメンバーは友達同士にしか見えない。「友達が少ない、けど周りには可愛い女の子がたくさん」と本作は揶揄され続けてきました。その欺瞞を理科は代弁します。

小鷹は聞こえていなかったわけではなく、聞こえなかったフリをし続けていたに過ぎません。自分たちがもう友達であること、彼女たちが自分に一定の好意を抱いていることに、小鷹は気付きながら「え? なんだって?」と聞こえないフリをしていたのです。何故か? 隣人部というモラトリアムの維持のためです。もう自分たちが友達であることを認め、さらに誰かの好意に応えてしまえば、隣人部というコミュニティは存在意義を失って崩壊します。そもそも隣人部は夜空が、実は幼いころ親友の間柄だった小鷹との関係性を復元するために作った部活です。小鷹はそのことに気付いているからこそ、鈍感な主人公を演じなければならなかったというわけです。

理科は、スタンガンで小鷹を現実に引き戻す役割を負う。

かくして、本作はハーレムものではなく、ハーレムものの欺瞞にスタンガンを押し当てるメタハーレムライトノベルであったことが発覚しました。

恋愛よりも複雑怪奇な友情の物語

8巻およびCONNECT(事実上の8.5巻)において、『僕は友達が少ない』の「僕」が理科のことであることが暗に示されたことで、彼女がもうひとりの主人公であることが明確化します。そうして、ようやく話は9巻に辿り着きます。な、長かった……。

8巻で星奈から告白されるも隣人部モラトリアムを維持したい小鷹は逃亡、最終的に理科とケンカをして友達に。9巻はその続き、星奈への告白の返事から始まります。つまり、9巻において星奈への告白の返事は、つまり「恋愛劇のひとつの結論」は、始まりでしかないのです。小鷹は星奈のことが好きだと言うけれど、隣人部の存続のためにも今は付き合えないと回答します。この間違いだらけの答えは、なによりも本作のテーマを明確にします。本作は恋愛そのものがテーマなのではなく、恋愛を含めた、複雑怪奇な人間関係そのものを中心に据えています。それを大きな意味で「友情」と呼ぶことにしましょう。そう、この物語は友情の困難さを描いているのです。故に『僕は友達が少ない』。

このことは、恋愛面での最終回答が出たかに見えながら、それが物語の始まりに過ぎず、9巻全体を通してなぜか星奈との絡みはほとんどなくて(もちろん「隣人部のためにお互い我慢しよう」という話になったからではあるのですが)、むしろ友達になったばかりの小鷹と理科の初々しい友達付き合いのエピソードの方が圧倒的に多いくらいですなんだそれいいぞもっとやれ、というあたりにも現れています。

加えて、メインヒロインだと思われていた夜空にも、違った意味でスポットライトが当たります。何しろ「友達」の座も「好きな女の子」の座も奪われてもう何も無い状態の駄目っこどうぶつであるところの夜空ですが、そもそも夜空は最初から、圧倒的な「反ヒロイン性」の持ち主であり続けました。

本作の主要キャラクターはみな友達がいないとされてきましたが、実際のところ、誤解されているだけの小鷹を始め、夜空以外のキャラクターは何か致命的な問題があって友達がいないわけではありませんでした。一方で、夜空というキャラクターは唯一、本質的に他人とコミュニケーションを取ることを不得手とする真の非コミュとして描かれ続けてきています。この対比と、夜空というキャラクターの「反ヒロイン性」については、この作品の本質に関わることでもあろうと予想してきました。その最後のパーツが、9巻からようやく見えてきたように思います。

9巻で示された、夜空の家庭環境や母親との確執、生徒会長である日高日向との「姉妹」という関係性は、半ば予想通りではありました。予想通りではあったけれども、尋常じゃなく重い。ただでさえいろいろな人間関係のうまくいかなさが散りばめられている9巻において、夜空の重さはぶっちぎりです。とてもどうにかできるレベルではない。ただでさえ主人公、人生経験に乏しくてヘタレなのに……。でも小鷹は夜空を救いたいと考えます。ようやく、夜空は、もう幼なじみでもなければ友達でもなく好きな女の子ですらないにも関わらず、主人公にとってのヒロインになったのです。なんだこれ。

世界のままならなさ、人間関係の複雑さ、そして何もなくなってしまった重いヒロインの重い事情。生徒会の面々という新しいキャラクターたちが加わって、メタハーレムライトノベルは、まったく別の物語に様変わりしました。いや、相変わらずハーレムものなんだけどさ。

おわりに

……という感じで9巻も最高だったわけですが、そういう堅苦しいのを抜きにしても最高でした。まず夜空。駄目すぎる。駄目すぎて本当に面白いし愛らしい。次に小鳩。夜空にデレすぎでしょ何それ和む。そして理科。小鷹の好きな相手は星奈であって理科は友達なはずなんだけどどう見ても理科と付き合っているようにしか見えなくて読みながら悶え狂ったどうしてくれるんだ。さらに小鷹。デレすぎだし、これまで隠してきた欲望丸出しすぎるだろというか、良かった小鷹も年ごろの男の子だったんだね……!と嬉しくなりました。最後に天馬さん。CONNECTの一気に対象年齢上がったかのようなハードでボイルドでディープなお話の記憶があるせいで、なんだか天馬さんが出てくるだけでしんみりしてしまうようになりました。天馬さん最高!

そんなわけで小鷹くんは星奈が好きとか言ってるけど多分それは若者特有の性欲を愛情と勘違いしちゃう系であって、最終的には理科ルートだと信じてるよ! マジで! 理科大好きで理科はきっと重要キャラに違いないと思ってたら現実化してひゃっほうってなったし今回もきっと報われるに決まってる。

結論:理科は可愛い!!