2023年の良かった漫画

読んでいますか? 僕はあんまり読めていない1年でした。

阿部共実 - 潮が舞い子が舞い (9)(10)

完結。

阿部共実の作風は、かつての鬱展開作家としてのイメージからは変わってきていて、もっと複雑で豊かな世界そのものを描き出すような、そんな唯一無二の作家になっています。筆者にとって最長となった本作は、ある街と学校の少年少女(と少しの大人)の物語で、その気になれば永遠に続けられそうではありましたが、実に唐突に最終回となりました。作中で蹴りがついた物語はほとんどなく、彼らの人生は続いていくんだなと思わせられますが、その中でもやはり、犀賀の片思いの行方を暗示するような自転車の描写が切ない109話(自転車といえば、筆者の名作「8304」を彷彿とさせます)、そして、百々瀬とバーグマンの現在と未来への祝福に溢れる最終話があまりにも感動的でした。

この漫画が読めて良かったです。連載お疲れさまでした。

mangacross.jp

松本大洋 - 東京ヒゴロ (3)

こちらも完結。松本大洋による漫画編集者漫画。

僕も一応、編集者的なことをしてきた身ではあるのですが、ここまでの情熱を持てるだろうか、と内省するきっかけになりました。ただ、最終巻、喫茶店でネームに苦しみながら、最終的に傘を追いかけて雨の中を駆け出して何かを掴む長作の姿を見て、僕はその瞬間が見たいんだな、となかば残酷なことを思ってしまったことも事実でした。最終巻の表紙は、傘なんですよね。

漫画家としては完全にベテランの域に入ってきた松本大洋が、割とストレートなこういう作品を描くんだなあ、と嬉しくなってしまいました。

bigcomicbros.net

業務用餅/六志麻あさ/kisui - 追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~ (4)(5)(6)

今年もめちゃくちゃ面白かったチー付与。昨年はサブマシンガンに代表される「ファンタジー追放ものなのにドラゴンがサブマシンガンを使うの!?」という異常さが受けていたわけですが、徐々に業務用餅が純粋に漫画がうまいことに気付かされていったのが今年だったと思います。まさか科学と魔術の関係性がちゃんと考えられているとは思わないじゃん。

ギャグのキレは加速していくのに、物語としての分厚さと、漫画描写のうまさが交わって引き込まれます。ネタで面白いと言っているんじゃないんですよ。現在連載中の半グレ編がまた素晴らしいので、追いつこう! 今すぐ!

comic-days.com

真船一雄 - K2 (44)(45)(46)

今年もめちゃくちゃ面白かったK2。かつてスーパードクターKに興奮してきた我々にとっても最高の医療漫画なのですが、リアルタイムに進行するので、作品内での人々の時の流れも強く感じられる展開がさらに増えてきました。

最近はどうやら真船先生がファンの盛り上がりに気付いてきたのか、ファンサービスもかなり過剰になってきました。刈谷先生のその後のエピソードが展開されたり(46巻には相馬先生の知られざる描き下ろしも!)、富永と一人のバディっぷりが描かれたり(一人先生、富永に対してそんなクソデカ感情を……)と、こんなご褒美いいんですか!?!?と興奮しきりです。とにかくかっこいい男たちのかっこいい医療物語が読みたければこれを読みましょう。

なんと最新刊ひとつ前の45巻まで全話無料が2024年1月8日まで! お正月休みをK2に費やそう!(ギュッ!)

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町田洋 - 砂の都

続きが描かれて、刊行されただけで、本当に感謝です。『惑星9の休日』『夜とコンクリート』の町田洋先生が、2018年からモーツーで連載開始するも途中中断、もう続きが描かれることも刊行されることもないのだろう……と思っていた本作が、今年ついに再開し、1冊の単行本になりました。本当に良かった……。

すごくサラッとした、でもたっぷりの余白にありとあらゆる感情がつめ込まれているような、これを描き切るのはしんどかっただろうなあと思わせる内容で、こうして形になったことが奇跡だなあと感じます。果たしてこれから、次の作品を読めるときがくるのかは分からないのですが、気長に待ち続けたいなと思います。

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いしいひさいち - 花の雨が降る ROCAエピソード集

昨年のベストの1つ『ROCA』の追加エピソード集。本編ラストのあれはこうだったのか、という納得感と衝撃。胸が締め付けられる。サウダージ……。表紙も素晴らしい。

www.ishii-shoten.com

なか憲人 - とくにある日々 (3)

だらだらとした日常を楽しく生きる姿は美しい。「しいちゃん」が「きみ」を眩しく思っているのが本当に良い。みんなかがやていてるなあ。最高。ずるい作品。

viewer.heros-web.com

とよ田みのる - これ描いて死ね (3)(4)

祝・マンガ大賞2023受賞! 天才・とよ田みのるがついに……。特に語ることはない。最高の漫画家漫画。主人公・安海のプロになりたいかという問いに対する(現時点での)結論が、とても現代的で良かったです。

www.sunday-webry.com

佐藤将 - 本田鹿の子の本棚 愛憎界曼荼羅篇

思春期の娘と再び仲良くなるために、娘の本棚を盗み読む父、しかしその本棚は暗黒文学にまみれていて……という心温まるハートフルストーリー。「親ガチャとか甘え」のコマが衝撃と共にインターネットを駆け巡った「残骸」収録の8冊目。僕はかーさんが好きです。

leedcafe.com

福本伸行 - 二階堂地獄ゴルフ (1)

かつてはあんなに素晴らしい漫画をたくさん描かれていたのに……と悲しい気持ちで福本さんを眺める年月が続いていましたが、カイジを中断してまで始まったのが、ゴルフ漫画。あんまり期待せずにいたら、いきなりプロテストに10年受からなくてつらいという35歳の主人公の公園での煩悶で1話が終わり、これどうするんだろう……と困惑。ところが、これがとんでもない地獄でありました。

1巻ラストは往年の福本さんらしい素晴らしい展開である一方、現在の連載最新話まで追うと本当にポンポンと数ページで1年2年と経過してしまい、なんといま主人公は42歳に……。よく福本漫画は進みが遅い、なんで揶揄されがちで、本作も序盤こそそんな感じでしたが、途中から鷲巣麻雀とは真逆の、時はあっという間に流れるのに中身は何も前に進んでいないという恐怖が描かれ始めます。地獄すぎる。「熱い三流なら上等よ」とアカギに言われた言葉を胸にここまで生きてきた我々に、こんな地獄を見せて楽しいのか、福本伸行!

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榎本俊二 - ザ・キンクス(単行本未発売)

単行本は未刊行ですが、榎本俊二大先生の最新作が素晴らしい! 最高傑作。小説家の父とグータラな母、そして娘と息子。錦久家の日々が描かれるだけの物語なのですが、榎本印の表現と描写によって最高の漫画体験が実現されています。これが、これこそが漫画なんだと感じられます。1巻は2024年2月発売!

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