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安田弘之「ちひろさん」1巻。めったくそ良いのだが、これをめったくそ良いというのはとても良くないというねじれ構造であって、うまく良いということができないというめんどくさい感じであり、それがちひろさんの良さである
— minekouki (@minesweeper96) 2014, 3月 16
安田弘之さんと言えば、一般的には、江角マキコ主演でドラマ化された『ショムニ』が代表作になるのだと思います。そんな安田さんの名作のひとつ『ちひろ』の続編1巻が刊行されました。続編といっても、単体で読めます。
前作では風俗嬢だった「ちひろさん」は、本作では海辺の町のお弁当屋さんで働いています。彼女のもとに訪れる老若男女を、ちひろさんは見つめ、語り、包み込み、突き放し、そうして日々が続いていきます。ひとつひとつのエピソードから、ちひろさんという人物の魅力がほとばしり、読者は骨抜きにされます。それがこの漫画の魅力なのですが、同時に恐ろしい面でもあります。
ちひろさんは最高にカッコいい女性でありながら、同時に、鏡のように見るものの実存を浮かび上がらせる装置として機能します。ちひろさんに聖性を求めた瞬間、それは俗なる願望でしかなく、つまり「ちひろさんはカッコいいなあ、面白いなあ」と思った瞬間、その欲望を自覚するという構造であるため、僕は「ちひろさん面白いですよ」と人に勧めるのが極めて困難です。無論「困難である」と思ってしまっている時点でダメです。ああめんどうくさいなあ! それがちひろさんの良さ。読む者(対峙する者)の自意識が問われる極めて恐ろしい書物です。ちひろさんは、そういうふうに考えてしまうこちらを、面白いなあと思ってからかってくるのでしょう。たぶん一生かなわない。
海の底から聞こえてくる音と、美味しいお弁当と、ちひろさんの言葉が共鳴する、猛毒ヒーリングお弁当漫画です。グルメ漫画ではない。