2012 Best Comic Top10

10位からいきます。

10位

▽ 松井優征『暗殺教室』(1) (2)

『魔人探偵脳噛ネウロ』の松井優征による愉快タコ型超生物無双! 週刊少年ジャンプの新時代を切り開きかねないほどに集英社が大プッシュしていますが、実際に面白いから困る。

月の7割を破壊し、1年後には地球も破壊するよと宣言する謎の生物「殺せんせー」の望みは「ある学校の落ちこぼれクラスの先生をすること」。国はそのクラスの生徒たちに殺せんせーの暗殺を依頼。報酬は100億円。かくして日々、生徒たちは暗殺を試みるのですが、殺せんせーはマッハ20で移動するチートなお方であり、暗殺しにきた生徒を「お手入れして」帰します。すなわちそれこそが殺せんせーの「授業」であり、それを通じて「落ちこぼれクラス」という劣等感を抱えた生徒たちは成長していく……という、気付けば良い話になっている気がする不思議さたるや!

最も重要なのは、この物語が「1年間」と限定されていること。1年間、暗殺が成功しなければ、殺せんせーは地球を破壊するからです。1巻発売後2ヶ月弱で160万部を突破しているというとんでもない売れ行きながら、それでもこの作品は作中世界の「1年間」で終わるのでしょう。楽しみです。

http://www.s-manga.net/comics_new/cn_20121102_wj_jpc_9784088705965_ansatsu-kyoshitsu-1k_uzK2tnLY.html
『ネウロ』で描かれる人間の進化、『暗殺教室』で描かれる生徒の成長 - ピアノ・ファイア

9位

▽ 諫山創『進撃の巨人』(7) (8) (9)

何度でも言おう。進撃は面白い! 切ったやつらのことなどもう知らん。このまま突っ走ってくれ!

女型の巨人を取り逃がし、リヴァイ班は壊滅。完膚なきまでの絶望の中で、アルミンが女型の巨人の正体を見破ります。OK、それくらい読んでいる僕らにだって分かっていたさ。そんなわけで8巻途中まで女型の巨人の正体というフックを引っ張っておいて、なんだー予想通りじゃんと思ったらその直後にとんでもない真実を叩き付けてくれました。壁が! 壁の、中に! 9巻ではさらに、壁の鍵を握る人物が明らかにされます。おまけに、ずっと名前を伏せられていたソバカスさんの名前が、もう目玉が飛び出るかと思うほどの衝撃。どんだけ驚き展開を用意すれば気がすむのか。この世界はどうなっているんだ!?

2013年はアニメ化されることですし、さらに盛り上がること間違いなしですね。ちなみに僕はハンジ分隊長が好きです。ハンジ×リヴァイ良いよね……(ハンジのことを女だと思い込んでいたのですが、実は男説もあって、作者はあえて明言していません。つまり僕はBLの世界に足を踏み入れてしまった可能性があります。ヤバい)。

戦士は踊る、読者は驚く、アルミン布団で丸くなる「進撃の巨人・第34話」※ネタバレあります - 無駄話
ソバカスなんて気にしないわ「進撃の巨人・第36話」※ネタバレあります - 無駄話

8位

▽ 架神恭介、横田卓馬『戦闘破壊学園ダンゲロス』(1) (2)

俺たちのYOKO先生がやってくれた! やってくれたぞ!!!

架神恭介による同名小説のコミカライズ版、作画を担当するのは週刊少年ジャンプでも読み切り作品「競技ダンス部へようこそ」や3話集中連載「こがねいろ」を発表した横田卓馬。そう! かつてWeb上で「痴漢男」や「オナニーマスター黒沢」のコミカライズを発表した俺たちのYOKO先生その人だ!

初の本格連載は原作付きということでオリジナルでないのは少し残念でしたが、とにかく横田先生の魅力が爆発していてたまらない出来です。原作の中二病感とクドさとグロさと馬鹿馬鹿しさのすべてが横田節で表現されており、読んでて脳内ドーパミンが吹き出まくりになります。多種多様な能力者たちが「生徒会グループ」「番長グループ」「転校生」という3つの勢力に別れて争うという単純なベースでありながら、ひとりひとりの能力とバックボーンが圧倒的な強度をもって物語を駆動。横田先生にこの原作をもってきた編集者GJと言わざるを得ない。

http://www.mangareborn.jp/features/1/pages/1
横田卓馬『戦闘破壊学園ダンゲロス』|そのスピードで

7位

▽ とよ田みのる『タケヲちゃん物怪録』(1) (2)

天才・とよ田みのるの最新作は稲生物怪録!

「愛とコミュニケーション」が神髄であるとよ田ワールド、今回は「世界一不運な女の子」と「人を不幸にするのが妖怪なのに、人を幸福にしかできず悩む座敷童」、そしてそれを取り巻く妖怪たちの物語です。毎回、オムニバス的にさまざまな妖怪が現れては主人公のタケヲちゃんを幸福にしていきます。もう完全に設定の勝利。こんなの面白くないわけがないじゃん。

『ラブロマ』も『友達100人できるかな』もそうでしたが、とよ田先生はどうして毎回毎話、こんなにも面白いネームを思いつけるんだろう、と頭の中を覗き込んでみたくなります。友100のときは「1話1人ずつとしても100話いけるね」なんて笑い話がありましたが、今回は妖怪なんていくらでもいるので何話でもいけそうですね!(ひどい)

ポップでファニー、読んでいて幸せになれる素晴らしい作品です。

「タケヲちゃん物怪録」「とよ田みのる短編集 CATCH&THROW 」凄くいい:ヤマカムセカンド
幸福を知らない少女が人間臭い妖怪達と出会ったら 『タケヲちゃん物怪録』の話 - ポンコツ山田.com

6位

▽ 押切蓮介『ハイスコアガール』(1) (2) (3)

もう語るべきことなどほとんどなさそうな、2012年最も話題となった作品の1つ。

『でろでろ』に代表されるホラーギャグ作家としての側面と、『ミスミソウ』『ツバキ』のような鬱々としたサイコホラー作家としての側面、そして『ゆうやみ特攻隊』『焔の眼』のようなバトル路線と、もういくつ顔をもっているんだこの人という状態ですが、ゲーム少年だった作者自身の自伝的作品『ピコピコ少年』をフィクション化するとこうなるのか、という新しい方向性がまったく異なるヒット作になってしまったというのは、とても面白い。

ゲーセン、ゲーム好きの悪ガキ、ゲームが超うまいお嬢様、以上! ゲームを通じたコミュニケーションのリアリズムに、ほんの一滴のフィクションを混ぜ合わせて、凶悪なまでのおっさんホイホイ漫画と化してしまった悪魔合体のような作品です。もう語り尽くされたと思いますが、1巻ラストの「ゲームキャラたちが主人公の背中を押す」という表現はあまりにも秀逸。いつまでも読み続けていたいと思わせる、魔性の漫画です。

暗いゲーセンに宿る美しい夕焼け「ハイスコアガール」 - 深町秋生のコミックストリート
http://news.honzuki.jp/highscoregirl

5位

▽ 西島大介『I Care Because You Do』

ゼロ年代の終わりを、90年代の呪いと接続することで実現する、壮大な実験。

1995年。庵野秀明か、リチャード・D・ジェイムスか、YOSHIKIか。いずれかの「神様」に感染してしまった3人の少年の「呪い」は、やがて痛々しい思い出となり、彼らは断念し、世界は終わり、自分が何をどうして好きだったのかすら分からなくなって、そうやって大人になって、そのすべてがあらためて全肯定される……という、とても優しい作品です。

恐らく本作は、ある一定の年代で、1995年にエヴァか、エイフェックス・ツインか、X JAPANのいずれかにハマった人でなければよく分からないと思います(僕はエイフェックス・ツインです)。90年代の呪いを持つ人にしか通用しないであろう本作は、最終回直前に3.11が起きてしまったが故に、さらに違う意味を持ってしまったとも言えます。すなわちこれは、1995年から2011年まで続いた呪いの総括だったのです。だからこれは笑い話だったはずなのに、もう遠い、輝かしい過去にも見えてしまう。複雑な作品になってしまいましたね……。

3.11|せかいまほうBLOG : : 世界の終わりの魔法使い公式サイト|河出書房新社
西島大介『I Care Because You Do』のこと - 事務局通信・別冊

4位

▽ シギサワカヤ『ヴァーチャル・レッド』(1) (2)

赤い女の幻想。

シギサワカヤがかつて同人誌という形で連載していた幻の作品です。2巻半ばでようやく同人誌分が終わり、雑誌「楽園」のWeb増刊分として連載されている続きが始まりました。

1巻の段階では、正直、何がなんだか分からないお話でした。戸締まりされていない木造建築に住む、誰にでも体を開く女。左手の薬指には指輪。この女は誰なのか? すべては2巻で明らかになります。読んでいて吐きそうになりました。耐えられない。こんなもの耐えられるわけがない……。

幾らでも別の選択肢はあった筈なのに 君自身がこの結末を選んだ
さあ見てくるといい その目でしっかりと
何一つ取り戻せない 何も間に合わないというその事実を確認する為だけに

もう間に合わない、というリグレットが形となって呪いのようにまとわりつく。その姿があまりにも美しくて、動悸が止まりません。それでも目の前に現れてくれるのだからいいじゃあないか、なんてことも思いますがね。

装丁がまた素晴らしくて、シギサワ流の半裸の女性のカラー絵の上から、半透明の赤いカバーを被せてあります。2012年ベスト装丁賞。赤いヴェールの向こう側なんて幻想なんだよ。

『ヴァーチャル・レッド』2巻(2012年12月28日発売 ※書籍扱い) - シギサワカヤBlog

3位

▽ 卯月妙子『人間仮免中』

愛と、妄想と、生きるということを描いた大傑作。

宝島社「このマンガがすごい!2013」オトコ編3位、フリースタイル「THE BEST MANGA 2013 このマンガを読め!」2位、オトナファミ「2012年コレ読んで漫画ランキングBEST50」4位と、それぞれ選者や対象層が異なる3つの漫画ランキングすべてで上位にランクインし、さらに本の雑誌社「本の雑誌が選ぶ2012年ベスト10」で1位を獲得する(このランキングで漫画が1位を取るのは、なんと1990年の第1回以来22年ぶり)など、その圧倒的な存在感を見せつけた、もう間違いなく「2012年を代表する作品」と言って良いであろう名作です。

かつてカルトAV女優として、そして『実録企画モノ』を生んだ漫画家としてその名を知られていた卯月妙子の10年ぶりの新作。卯月が歳の離れた「クソオヤジ」ボビーに交際を申し込み、同棲し……そして、統合失調症の薬をいきなり減らしてしまい、万能感が原因で歩道橋から道路へバンジー。大手術の結果、一命は取り留めるものの、救命治療が優先で精神科で処方された薬は中断、かくして本作後半は薬が切れた状態の妄想全開での入院生活が描かれる。つまり「妄想全開だった入院中の主観を後になって漫画として再現する」というとんでもないことを実現しているわけで、奇跡としか言いようがない。

統合失調症に生死をさまよう大怪我と、かくも人生は理不尽なのかと思わずにはいられないのだけれど、そこはさすがの卯月節、すべてをコメディタッチで描き、すべてを笑い飛ばし、ボビーという愛すべき人物との生活を全肯定してみせるのです。「生きてるって最高だ!!!」とこの人に言われたら、僕らに何が言えるでしょう?

心の病と死という2つの要素は、僕自身にとっても非常に大きな意味をもちます。だから、僕はこの作品を読んで号泣したのです。生きてるって最高だ、と伝えてくれる、とてもとても素晴らしい作品です。

10年越しの衝撃:卯月妙子『人間仮免中』 - マンガLOG収蔵庫
卯月妙子『人間仮免中』反響まとめ - Togetter

2位

▽ 阿部共実『空が灰色だから』(1) (2) (3)

とんでもない怪物が生まれてしまった、と言うべきでしょう。いま最も面白い少年漫画です。間違いなく。

このブログでも私生活でも周りに勧めまくっているのでもう言うべきこともないのですが、何度でも言います。週刊少年チャンピオンで絶賛連載中のこのオムニバス灰色漫画は本当にすごい。どうしようもなくとほほなコメディと、正統派どまんなかのホラーと、後味の悪さしか残らないような絶望的な鬱話と、完全に病気な話と、泣いてしまうほど美しい物語と……ありとあらゆる要素がオムニバス形式で“毎週”投下されるという異常事態が、今年1年にわたって繰り広げられました。毎回、このページをめくったらどうなってしまうのか、どんな未来が待っているのか、動悸を押さえられなくなるのです。このクオリティと、この球の投げ分けを、オムニバスという形で、週刊連載できるとは、いったいどういうことでしょう。僕には理解ができません。

この世界はパターンとお約束でできています。すべては順列組み合わせです。だからこのページをめくったらどうなるか、僕らはだいたい分かっています。この作品は、それを逆手に取ります。この世界のパターンとお約束を熟知しているからこそ、いつどのパターンのはしごを外し、いつどのお約束をそのまま投げるか、組み立てができるのです。……なんて、言葉で言うのは簡単ですが、それを(くどいようですが何度でも言いますよ)週刊連載で実現してしまうというのは、ちょっと尋常ではありません。

すべてのベースとなっているのは、人生の「うまくいかなさ」です。誰も彼も、うまくいかないのです。うまくいかない人々が、それでも救われることもあります。そして、救われないこともあります。言葉にすると当たり前だけれど、この漫画はそれを叩き付けてきます。救われることもあります。そして、救われないこともあります。来週はどんな人間が、どんな風にうまくいかなくて、そして、救われるのか、救われないのか。一寸先は闇。最後のページを開くまで白と黒のどちらに転ぶか分からない、それどころか最後まで読んでも白だったか黒だったか判断できない、常に揺らぎ得る灰色の世界を淡々と描き出す、新しい天才の誕生を祝福しましょう。

誰かがみんな私を見ている気がする『空が灰色だから』 - エキサイトニュース
『サナギさん』から『空が灰色だから』へ チャンピオン”ほのぼのトラウマ漫画”の系譜 : 雑食商店街3373番地

1位

▽ いがらしみきお『 I【アイ】』(2)

別格。

2011年に続き、2012年もこれがトップでした。

カルト的コミュニティ「岡島にんげん農場」で疑似家族に囲まれ、濃密な人間関係の中で生活することになった雅彦。彼にもたらされた粘つくような仮初めの幸せが、そうやって生きても幸せになれないという端的な事実を浮かび上がらせます。「幸せに生きる」ことに幸せを感じられない、「幸せに生きる」ことで幸せになれない。そう、世界にはそういう人間がいるのです。人の中で生きること“そのもの”に幸せを感じられない。それは絶望であり、希望です。

「人の世の中には人の理屈しかない」「一人で生きねば、神様は見えなくなってしまう」とイサオは雅彦に告げます。では神様とは。その答えの一端が示されて2巻は終わります。

いがらしみきおは、どうやら本気で「神様」と「幸福」について描くつもりのようです。読んでいて鳥肌がたち、目眩がして、脳髄が沸騰し、そっと背後の暗闇を見つめてしまうような、そんなとんでもない作品です。願わくば、来年はこれを超える漫画が生まれてくれますように。でないと、2013年の1位は本作の3巻になりかねません。多分なるんじゃないかな……。

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番外

コミックス未発売作品賞:平方昌宏『新米婦警キルコさん』

週刊少年ジャンプ新連載。ふたばとpixivで人気沸騰中。僕はこの作品のため、十数年ぶりにジャンプを買いました。2013年の台風の目になるといいね……。キルコさんkawaii!

主演男優賞:ボビー(卯月妙子『人間仮免中』)

人間仮免中

人間仮免中

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ボビーは今年もっともカッコ良かった男です。クソオヤジだけど。僕もこうなりたい。

主演女優賞:岩谷ヨリ(西炯子『姉の結婚』)

ヨリさん良いよね……。アラフォーとは思えない美貌とダメっぷりが最高。ひとりぼっちになっちゃった……な4巻がたまらないですね!

助演男優賞:岡島文人(いがらしみきお『 I【アイ】』)

「岡島にんげん農場」の団長。さすがに頭が良いし、どこかこの世界の真理に指をかけているようにも思えます。最高でした。

助演女優賞:クッシー先輩(春野友矢『ディーふらぐ!』)

↑表紙の人です。九段下ことクッシー先輩です。強面だけど面倒見の良いお節介焼きの先輩で人望も厚くしかもちょっと恥ずかしがりやな一面もあって人気なのだ! クッシー先輩かわいい!