2012 Best Movie Top10

10位からいきます。

10位

▽ アン・リンセル『ピナ・バウシュ 夢の教室』Tanzträume - Jugendliche tanzen Kontakthof von Pina Bausch

2009年に亡くなったバレエダンサー、ピナ・バウシュが、自らの代表作「コンタクトホーフ」を、ダンス経験のない40人の少年少女に踊らせる、そこに至る過程をとらえたドキュメンタリー。

ピナの名も知らず、ダンスをすることに恥じらいを見せ、異性との接触を躊躇う少年少女たちは、同時にそれぞれの等身大の悩みや葛藤をカメラに向かって吐露します。そうした戸惑いがやがてダンスという「表現」そのものによって脱構築され、コンタクトホーフという作品へと収斂していくまでを描いた本作は、1つの記録映像でありながら、よくできた寓話のようですらあります。「表現」という営みがもつ根源的な力をまざまざと見せつける、極めて暖かなフィルムです。ピナの指導風景というレア映像も見られてお得。

http://www.pina-yume.com/

[asin:B0084XK81G:detail]

9位

▽ 塚本晋也『KOTOKO』

「歌っているとき以外は他人が=社会が二重に見えてしまうシングルマザーKOTOKO(=Cocco)」を、彼女によって救済される小説家の田中(=塚本晋也)が見つめる、という(いろんな意味で)二重映画。

他人が=社会が二重に見えるKOTOKOが狂っているのではなく、社会と、社会を二重に見ることすらできない我々が狂っているのだ、という脅迫的な認識を覚えてしまうほどに、Coccoの踊る姿を田中=塚本は美しく撮ります。作品世界で撮り、映画そのものとして撮る。うまくできないと泣き叫び、体を切り刻むCoccoに救いを見いだしている時点でだいぶ狂っているので、救済は特にありません。ただひたすら「塚本的」であり続ける自分自身を呪いましょう。ラストはファンタジーのように思うけれど、意見が割れそう。

映画『KOTOKO』の公式サイト

[asin:B008BHN1WS:detail]

8位

▽ アスガル・ファルハーディー『別離』جدایی نادر از سیمین

イラン流ドロドロ離婚&介護&裁判ドラマ。

テヘランに住む夫婦は離婚調停中。妻は娘の教育のため海外移住がしたかった。でも夫はアルツハイマーの父の介護があるため移住に反対。妻は出て行き、夫はヘルパーとして若い女性を雇うが、彼女が父をベッドに縛り付けて外出中、父は意識不明で発見され、怒った夫はヘルパーを突き飛ばす。後に流産が発覚し、ヘルパーの夫が怒鳴り込んでくる。かくして論争は法廷へ……。ありがちなドロドロ展開でありながら、そこには普遍的な家族問題や介護問題と、イラン的な敬虔なイスラム教徒としての立ち位置が混在し、それぞれの主張とそれぞれの問題が複雑に絡み合って、何が正しいのか、何が間違っているのかが溶解していきます。どうすれば良かったのか?なんて、誰にも分からないでしょうね、きっと。

betsuri.com

[asin:B008YRDPGM:detail]

7位

▽ 園子温『希望の国』

みんな大好き園子温が描く原発フィクション。Notドキュメンタリー。

20kmという境界、妊娠し過剰に怯える女性、両親を探し続ける少女、人のいなくなった“圏内”を楽しそうに歩く認知症の母。3組の夫婦/カップルそれぞれ、震災以降を生きる様が描かれます。フィクションであるが故に、過剰なまでのリアリズムを映し出します。「早く帰ろうよう」という母の口癖がいつまでも耳に残る、渾身のフィルムに仕上がっています。雪の中を踊る姿はとても美しく、がれきの中を歩き続ける姿はとても力強く、そして遠く離れた海辺で笑う姿はとても恐ろしい。

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6位

▽ ロバート・B・ウィード『映画と恋とウディ・アレン』Woody Allen: A Documentary

天才映画監督ウディ・アレンに密着したドキュメンタリー。

ニューヨークポストなどにジョークを投稿していた少年時代から、やがてジョーク・ライター、コメディアン、そして俳優から映画監督へと至る、そのすべてをきちんと追いかけ、同時にこれまで作品に出演したスカーレット・ヨハンソン、ナオミ・ワッツ、ダイアン・キートン(!)、ペネロペ・クルスなど錚々たる面々へのインタビューを交えて、ウディ・アレンという異能を浮き彫りにした、とても丁寧な作品です。しかしなによりも、やはりアレン自身へのインタビュー映像が素晴らしい。要するにこれは、被写体としてのウディ・アレンの良さを再認識するフィルムです。恋愛と死を常に同居させ続けるこの男の、ラストの言葉は最高に痺れます。「夢見たことで実現しなかったことは何もない。こんなにも運がよかったのに、人生の落後者の気分なのはなぜだろう」!

http://woody-documentary.jp/

5位

▽ ウディ・アレン『ミッドナイト・イン・パリ』Midnight in Paris

そんなウディ・アレンの、なぜか過去最大のヒット作となってしまったパリ啓蒙映画。

まずタイトルが良い。このタイトルで面白くないわけがない。そしてパリが良い。パリの情景が美しすぎる。アレンそんなにパリ好きだったの。出てくる人も素晴らしい。コール・ポーター、ジャン・コクトー、スコット&ゼルダ・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイ、ガートルード・スタイン、ダリ、パブロ・ピカソ、そしてロートレック、ゴーギャン、ドガ! やだなにそのオールスター。しかして本作の最も素晴らしいところは、現代から見て1920年代のパリが良かったよねと思っている人の目の前で、1920年代の人間はベル・エポックこそ至高と語り、ところがベル・エポックの時代で語られるのはルネサンス期の輝かしさである……というこの終わらない「ここではないどこか」への憧憬でしょう。そうして主人公のジルは過去への想いが相対的なものであると知り現代に戻るけれども、ハリウッドには帰らずに「ここではないどこか」であったパリに留まってしまう……。なんて人間は愚かで美しいのか! まあそんな感じです。

http://www.midnightinparis.jp/

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4位

▽ ラース・フォン・トリアー『メランコリア』Melancholia

鬱病になったトリアーpresents「ぼくのかんがえたさいきょうのせかいのおわり」。

とてもとても幸せなはずの結婚式で、不安定になって奇行に走り、すべてを失うジャスティン。もうこの前半の奇行っぷりが見ていて最高。幸せな世界で幸せになれない、幸せであること“そのもの”に幸せを感じられない人間の姿が生々しく描かれます。そうして廃人のようになってしまった彼女は、やがて地球に接近する惑星メランコリアと呼応するように、徐々に心の平穏を取り戻していきます。惑星が接近し、恐怖に戦いていく人々とは対照的に! 後半はもうただひたすら終わりゆく世界で菩薩のようになっていくジャスティンと、迫り来る美しい惑星メランコリアに心を奪われっぱなしになります。極めて身も蓋もない、世界の理不尽さをそのまま叩き付けるような、普通もうちょっとオブラートに包むだろというところで思いっきり豪速球ストレートを投げてしまったようなフィルムです。この世界は理不尽だ! だからこそメランコリアは美しい。

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3位

▽ タル・ベーラ『ニーチェの馬』A torinói ló

タル・ベーラ最後の作品は、神の天地創造1週間を逆回し!

哲学者ニーチェはトリノで馬の首をかき抱いて発狂した。その馬と過ごす1週間を淡々と描くのがこのフィルム。風吹きすさぶ荒涼とした地に住む父と娘と馬の、淡々とした日々です。そう、これはタル・ベーラ流の「日常系」なのである! 2日目に馬が動かなくなり、3日目にはエサを食べなくなり、4日目には井戸の水が枯れ、5日目には火が付かなくなり……。そうやって天地創造が逆回転していく中で、親子は淡々と日常を過ごします。モノクロ超長回しフィルムはミニマリズムの極北といった風情であり、観るものは例外無く沼の奥底へと引きずり込まれ、メランコリアとは逆に「淡々と世界が終わっていく」様子をボロボロになりながら見つめ続けさせられるのです。最後にイモを食べるシーンが最高。水がないので蒸かせない。火がつかないので焼けない。それでも「食べねばならぬ」と言って生でかじりつき、マズそうな顔をする。世界の終わりの地獄とは、すなわち我々の日常そのままである。

http://bitters.co.jp/uma/

[asin:B0098F40G8:detail]

2位

▽ 大林宣彦『この空の花―長岡花火物語』

素晴らしき哉、長岡ワンダーランド!

新潟県の長岡で毎年8月に打ち上げられる「長岡花火」と、戊辰戦争、真珠湾攻撃、長岡大空襲、新潟県中越沖地震、東日本大震災という歴史とを掛け合わせた一大叙事詩。大林監督の脳内をそのままフィルムに叩き付けてしまったかのような過剰さ爆発っぷりは長岡ワンダーランドを克明に描き切りました。長岡の高校教師・健一は、生徒の元木花から『まだ戦争には間に合う』という脚本を渡されます。生徒たちが演じることになったこの舞台を見に来ないかと、天草に住む元恋人の地方紙記者・玲子に手紙を出す健一。映画全体を通じて2人は、自らの心情や過去を、カメラに=客席に向かって文字通り「語り続けます」。3時間近くの長さの中で、過剰なまでに濃縮されたセリフが詰め込まれ、現在と過去の映像は一切の演出的説明なく混ぜ合わされます。すべてが過剰です。目眩がします。そのすべてが、一輪車に乗って泳ぐようにスクリーン上を駆ける元木花と、打ち上げられる長岡花火へと収斂していきます。これは泣くよ。僕は泣きました。こんな映画は見たことがない。脳髄が焼き切れるような映画体験と、元木花役の猪股南(一輪車の世界チャンピオン)という奇跡の目撃、2つの意味で圧倒的でした。

http://konosoranohana.jp/

1位

▽ アッバス・キアロスタミ『ライク・サムワン・イン・ラブ』Like Someone in Love

キアロスタミ! キアロスタミ!! キアロスタミ!!!!!!

アッバス・キアロスタミはやはりすごかった! キャストすべて日本人、舞台は日本、スタッフもほとんど日本人。キアロスタミが撮影した日本映画は、やはりキアロスタミであり、極上の映画でした。主要登場人物はたったの3人。デートクラブでアルバイトをする女子大生の明子、彼女を呼ぶ80歳を超えた元大学教授のタカシ、そして明子の婚約者ノリアキ。物語は24時間に満たない、とてもミニマムなフィルムです。にも関わらず、この映画は、世界の豊かさを教えてくれます。この世界は、生きる人々は、こんなにも豊かで、こんなにも複雑で、こんなにも見たことのない顔を持っている! フィルムの外側への想像力にあふれた芳醇な描写は、キアロスタミの手腕と手法(演者にその日の分の台本しか渡さず、先を教えない)、そして独特の映像に支えられているが故でしょう。エラ・フィッツジェラルドの「Like Someone in Love」を聴きながら、何度でも反芻してしまう、素晴らしい映画です。僕らは滑稽に生きるしかなく、空転する会話の中でため息をつくしかないけれど、それでも世界はこんなにも豊かで美しい。Like Someone in Love!

http://www.likesomeoneinlove.jp/