秋★枝『恋は光』。恋を言葉で表現し続けた誠実な男の物語。あと北代さんは可愛いという話

2017年、最も続きが気になり続け、最も素晴らしい完結を迎えたマンガのひとつ、秋★枝先生の『恋は光』の話をします。

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秋★枝さんという人は、ずっと「恋」について描いてきた作家であると思います。いやもちろんそれ以外のテーマの作品もあるんですけど。それこそ、ロケット燃料★21としての東方の同人誌から、近年の商業作品まで。在り来たりではない、不思議な風合いの「恋」について、マンガという媒体でありながら、言葉を用いて、「恋」を言葉に乗せて世界を描き続けてきました。

『恋は光』は、そんな著者の「恋」の物語のひとつの到達点であると感じます。本作は「恋をしている人物が(比喩ではなく実際に)光って見える」という主人公・西条が、一目惚れした相手である東雲、幼馴染である友人の北代、奔放な女性である宿木、それぞれとの関係性をベースとしながら、「なぜ恋が光となって見えるのか」「そもそもその光は恋の発露なのか」について思考・分析していく物語です。

ずっとずっと光り続ける自信があります
だからずっと
見ていて下さい

光として見えるという現象自体に科学的な説明がされるわけではありませんが、しかし「恋は光」というファンタジーな現象を軸に、登場人物たちは「恋」について、そして「光」について考察を重ね、言葉を交わし、光とは何か、すなわち、恋とは何かを議論します。母親から愛情を与えられなかった存在である西条、西条から一目惚れされたことをきっかけに北代や宿木とも交流し恋を理解していく東雲、西条を友人として支え続けてきた(し実際は想いを寄せる)北代、多くの女から男を奪っては乗り換えてきつつも西条との関係の中で違った意味での恋を知る宿木。登場人物たちは皆、感情としての恋に翻弄されながら、すべてを言葉で記述していきます。恋とは何か。その定義は困難ですが、彼らはひたすらに、恋(=光という形で描かれる事象)を言葉の世界へと引きずり戻します。

物語は終盤、北代の恋で転換点を迎えます。ずっと西条に想いを寄せつつも、西条から見ると光っていないため、自分にそういった意味での好意を寄せていないと西条に思われていた北代。まったく別の環境に存在する、もう1人の「恋が光となって見える存在」である央が彼女を見て「誰よりも光っている」と西条に告げたことで、北代の真実と、そして「ふたつの恋」の違いについての考察、そしてなにより、西条の苦悩が始まります。

西条の苦悩は、いわゆる「ヒロインが複数存在するラブコメディ」において定番の苦悩でありながらも、あまりにも誠実であり、また、その答えは過去に例を見ない、あまりにも西条らしい、西条にしか出せないものでした。正直に言いましょう。僕は序盤からずっと北代しか見ていなかったと言ってもいいほどに北代という人物に入れ込み、北代があまりに不憫すぎて枕を濡らし、北代の真実が明かされたときはガッツポーズをし、西条の答えが出るまで北代と一緒にドキドキし続けました。気持ち悪いですね。北代さん不憫可愛い……。いいやつなんすよ……。連載中Twitterを見ているとよく北代さんで感情になってしまう人を散見しました。わかる。

その答えを西条から聞かされたとき、北代はどう思ったか。「充分だ」。わかる。わかる……。西条という男は本当に誠実で、恋という感情を理詰めで捉え、北代に真正面から向き合い、彼にしか出せない答えを出しました。充分だ。

そして、東雲が言う通り、西条はこれだけ恋という感情のあらゆる側面を見てきていながら、それでも恋を「光」として見て捉え続けている。つまり西条とはそういう男であり、彼にとって「恋は光」なのだと、そうして、光り続ける東雲を見つめ続けていくのだと。最終巻の、筆者による圧倒的なまでの説得力ある言葉の数々で、納得してしまったのでした。このような形で結論を導いたラブコメディを、僕は他に知りません。

ウルトラジャンプにて最終話を読んだ際は完全に言語がなくなっている様子がお分かりかと思いますが、西条や北代や東雲は、ひたすらに言葉で感情を記述し続けました。すごいと思う。彼らは、そして著者は「光」である恋を言葉にして、恋とは何かに挑み続けました。

恋は光である。そのようにある西条という人物の恋を見届ける。これは、どこまでいっても恋を光として捉える誠実な男の物語なのです。


でも10年後くらいに北代と結果としてくっついててほしい。以上です。


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