近藤ようこ/津原泰水『五色の舟』の美しさは、舟を乗り換えることができないこの世界の最後の希望である

近藤ようこさん、坂口安吾「夜長姫と耳男」「桜の森の満開の下」「戦争と一人の女」コミカライズに続き、今度は津原泰水さんが2011年に刊行した作品集『11 eleven』収録の「五色の舟」を漫画化! 表紙を見、1ページ目を開いただけで、もう一発で「これはやばい」と分かります。

小さな舟に住み、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ異形の者5人の“家族”は、未来を言い当てる怪物「くだん」を買い取るべく岩国へ向かう。5人それぞれの背景や想いを丁寧に描きながら続く旅の中で、両腕がなく耳も聞こえないが心を読める少年「和郎」と、結合双生児として生まれながらひとり生き残った言葉を話せない少女「桜」は、やがて「家族たちが舟を乗り換える」という夢を見る。みんなが舟を乗り換えて去っていってしまうことを恐れるなか、ついに「くだん」と出会った2人は、「舟=世界を乗り換える」のが誰なのかを知る。

5人の異形を淡々と、美しく描く筆致はあまりにも素晴らしく、また「舟を乗り換える」ことへの複雑な感情、かつての舟への望郷を見事に絵へと落とし込んでおり、その才能にただひたすら嫉妬を覚えます。「ここではないどこか」への夢想を越えて、「ここではないどこか」へと舟を乗り換えて幸せになった者の、乗り換えきれない感情が、いかに心を搔きむしることか。「五色の舟」の美しさは、世界の乗り換えによってなお、輝きを増す。それが「幸福な世界を選択できない=舟を乗り換えることができない=くだんの存在しない」この現実に対する、最後の希望なのでしょう。

それにしても桜が可愛い。

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