問答無用の強度。死なない生き物の逃亡。三浦追儺、桜井画門『亜人』

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マンガに限らず、創作物の世界では一定の割合で「問答無用の強度」を持った作品というものが出現します。物語、設定、キャラクター、表現技法が絡み合って、よく分からない説得力を持ったまま、善し悪しを超えて受け手側に突き刺さってくる、理屈を超えた面白さを有する作品。『亜人』も、そんな作品です。

17年前にアフリカで発見された「人間によく似た、死なない生き物」=「亜人」。正確に言えば「死んでも即蘇生する」のが亜人の特徴であり、それ以外に大きな違いはないため「死んでみないと亜人とは(本人にすら)分からない」という部分がポイントです。物語は、高校生の主人公がある日、交通事故に遭い即死するも即蘇生、亜人であったことを知るところから始まります。人は亜人を「人間ではない生き物」として認識し、その全容を解明すべく捕らえて実験する(要するに何度も殺したりする)。そんなわけで、主人公の逃亡劇が始まります。

1巻の段階では、亜人の中でも特定の「別種」が「黒い幽霊」(ジョジョにおけるスタンドに代表される、能力の擬人化描写)を持つこと、亜人は公表されているより多く存在すると思われること、亜人側の勢力(コミュニティ?)が存在することなどが明かされます。また、主人公が後半に進むに連れて人間的な倫理観を失い始める描写も見られます。

設定としては決して目新しいものではありません。不死の存在はポピュラーですし、黒い幽霊も前述の通り多くの人はスタンドを思い浮かべるでしょう。「人ならざる存在への差別と共存」的モチーフもよくあるものです。

しかし、こうした「目新しくない」という点が、本作の面白さをなんら毀損していないことにこそ注目すべきでしょう。すっきりしていて見やすいけれど、どこか不気味な魅力を放つ作画と、追われる者の焦燥、少しずつ明かされる謎に対する不安感などを効果的に積み重ねる物語が交差して、まあ要するに、単純に「読んでいてすげえ面白い」という謎の魅力を放ってくれます。理屈ではなく、本能で続きが読みたくなります。

表紙にもなっている黒い幽霊のデザインがまた最高。装丁めっちゃくちゃ良いですよね……。ちなみにこれ、Kindle版を買いました。講談社はかなり電子書籍側に力を入れているようで嬉しい限り。全マンガ作品が本と電子の同時発売くらいの勢いになるのを期待しています。