人生とは映画である。レオス・カラックス『ホーリー・モーターズ』

http://instagram.com/p/Xv6mjToWZ3/

ペットくすり『犬猫専門お薬通販』ネットからのご注文

暴風吹き荒れる中、公開初日に見てきましたよ。メイストーム、アンファンテリブル、ホーリー・モーターズ!

レオス・カラックス監督との初めての出会いは、特になんのひねりも無く『ポンヌフの恋人』でした。たしか高校生のときかな、ポンヌフを見て、ああ映画ってすごいんだな、と思ったことをよく覚えています。

『ポーラX』以来、13年ぶりの長編映画である本作。2012年カンヌ国際映画祭にてその名がクレジットされていることを知り、英ガーディアン紙のライターが「パルム・ドールをちょうど獲れるくらいに狂っている」とつぶやき、そしてにカンヌで無冠に終わった(アッバス・キアロスタミ『ライク・サムワン・イン・ラブ』と同様に!)。そのときから、早く見たいと思い続けていました。後に本作は、仏カイエ・デュ・シネマ誌の2012年映画ベスト10で1位を獲得します。

レオス・カラックス13年ぶりの新作が「パルム・ドールを獲れるくらいに狂ってる」らしい!!! (2012/05/23) 中村明美の「ニューヨーク通信」 |音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)
カンヌ映画祭、最高賞パルムドールはミヒャエル・ハネケ監督が2度目の受賞!日本舞台のキアロスタミ作品は受賞ならず:第65回カンヌ国際映画祭|シネマトゥデイ
仏カイエ・デュ・シネマ誌が選ぶ2012年の映画ベスト10 : 映画ニュース - 映画.com

事前にトレーラーや紹介に目を通しても、いったいどんな映画なのかサッパリ分からなかったのですが、見てみたら、ああなるほどとすべてがつながったように思いました。つまり、人生とは映画なんだよ。

映画『ホーリー・モーターズ』予告編 - YouTube

映画は、カラックス本人が目覚め、部屋に隠し扉を見つけ、出た先には顔のない観客がこちらを見つめていた……というシーンから始まります。カラックス作品おなじみのドニ・ラヴァン扮する「オスカー」が、最初は銀行家として家を出て、リムジンに乗り込み、今日のアポは何件だとか聞くわけですが……そのままカツラをかぶって老婆に変身し、橋の上で物乞いを始めるのです。えっ、なにそれこわい。意味が分からないと思いますが、実際にそうなので困る。

オスカーは、いくつものまったく別の人間に変装(というよりもはや「変身」)し、その人の姿で一定時間、その人の人生を送るという仕事をしています。見ている間に、徐々に「ああ、俳優のメタファーなのかな……」と分かってくるわけですが、それにしては殺し屋として実際に人を殺したりしていて意味が分かりません。どこかにカメラがあるわけでもないし……。かくしてオスカーは物乞いの老婆に続いて「モーション・キャプチャーのスペシャリスト」になって、スタジオでアクションをこなしていきます。ここの映像がカッコ良すぎる! トレーラーや写真でよく使われていたのはこれだったんだなーと納得。さらにオスカーはそのまま、カラックス前作『TOKYO!<メルド>』の怪人メルド(「ゴジラのテーマ」最高!)、初めてパーティーに行った娘を迎えにいく父親(一瞬、本当の娘かと錯覚しました)、アコーディオン奏者(インターミッション。演奏カッコ良すぎ)……と「アポ」をこなしていきます。

段々と、これは「アポ」なんだなと分かってくるのですが、それでもたまに「あれ? これもしかしてオスカー本人?」と思ってしまう瞬間があります。また、オスカーはプロフェッショナルとして「アポ」をこなしていくのですが、徐々に疲れていく様が見え隠れして、その点も非常に興味深い。

言うまでもなく……これは「人は常に演じ続ける」であるとか「違う人生を歩みたい」であるとか「変身願望」であるとか、そういったモチーフを架空の職業として描き出している、と簡単に言うこともできます。しかし、オスカーはこの仕事を「行為の美しさ」故に始めたのだと語ります。

Holy Motors Official Trailer #1 (2012) - Denis Lavant, Eva Mendes Movie HD - YouTube

オスカーの「本当の家」はどこにあるのか……。最後のアポは「自宅。妻と娘」です。でもあり得ない。本当のオスカーはどこにいるのか、カイリー・ミノーグが演じるかつての恋人ジーンとの30分だけが本当のオスカーだったのだろうか?(しかし「今日のアポは9件」と言っているし、もし途中の銀行家殺害が突発的なものでアポではないとすると、あれもアポだったのではないかとも深読みできるし……)

演じるとは何か、人生とは何か……このファニーで狂ったフィルムは、自分が何者で、人生とはいったいどういうもので、過去と現在と未来は本当に自分自身であるのかを問います。

エンド・クレジットに登場する写真の女性は、カラックスのパートナーであり『ポーラX』の主演女優でもあった、2011年に急逝したカテリーナ・ゴルベワ。本作は、パートナーを喪った男が作った、彼女へと捧げられたフィルムです。そう考えると、すべてが納得できるように、僕には思えます。耐えられぬ悲しみが突然に襲い来る人生において、人は演じながら、別の生を夢想しながら、そうしてやがて自分自身すら分からなくなって……その姿は美しい。ジーンの姿を見るオスカーの悲鳴は、オスカーの悲鳴だったのだろうか? 僕にはよく分かります。人間は演じるからこそ、理不尽な生の中で何とか生きることができる。人生とは映画である。僕にはよく分かるのです。

2011-08-24