2020年の良かった漫画

往年に比べると本当に読む量が減りました。

久部緑郎、河合単、石神秀幸 / らーめん再遊記 (1)(2)

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「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」「新しい何かとは、構造を疑い破壊することなくしては生まれないのだ!」「いいものなら売れるなどというナイーヴな考え方は捨てろ」……理想と現実の狭間で揺れ動く我々に数多くの名言を与えてくれた芹沢サンことラーメン界の伝説のカリスマ・芹沢達也。『ラーメン発見伝』では超えるべき壁として立ちはだかり、『らーめん才遊記』ではキレものの師として見守ってくれた彼が、ドラマ化にあわせて復活した最新作では、「すべての理想を叶えてしまったが故に燃え尽きてしまった男」として登場し、その先に何を目指すべきかを指し示してくれる。こんな弱々しい芹沢さん見たくなかった……とすべての芹沢ファンに動揺を与えた問題作。文句なし、今年最も素晴らしかった漫画です。

bigcomicbros.net

藤本タツキ / チェンソーマン (5)(6)(7)(8)(9)

祝第1部完、祝このマン1位、祝アニメ化。レゼ編の切なさやサンタクロース編のハチャメチャさを月の彼方へと吹き飛ばす銃の悪魔編のあまりの辛さに、藤本タツキは人の心がないのか? マンガの悪魔なのか? みたいに毎週月曜日に阿鼻叫喚となる我々(および横槍メンゴ先生)だった2020年でした。銃の悪魔登場直前からのマキマさんと早パイの一連のシークエンスは人間にこんなものが描けるのか……と脱帽せずにはいられなかったし、ジャンプというフィールドでここまでヤバい映画じみた話を展開できるのはちょっとすごすぎる。雪合戦、たのしいよね……。乾いた笑いが止まらない大傑作。アニメ楽しみですね。本当に映像化できるんですか? 第2部も楽しみですね。やっぱり吉田ヒロフミが相棒になるんですか?

shonenjumpplus.com

chainsawman.dog

近藤信輔 / 忍者と極道 (1)(2)(3)

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忍者と極道が殺しあうマンガ。ただひたすらそれだけなのに、なぜこんなに笑えて、なぜこんなに泣けるのか。「みんな!! “薬物(ヤク)”キメろォォ!!」のコマを見なかった日はなかったかもしれない(言い過ぎ)。笑えない忍者の少年・忍者(しのは)と、表向きはエリート会社員の竹本組「裏組長」極道(きわみ)の友情が通奏低音となって、忍者と極道の抗争に深みを与えている。基本的に一般市民を殺しまくっているはずの極道側のエピソードがすごく泣ける関係性を出してくるあたり倒錯がすごいことになっているが、それが頂点に達したのが暴走族神(ゾクガミ)編。「よう。神(オレ)だぜ」から始まる暴走族神と幹部たちの友情が本当に泣ける。一般市民を殺しまくってるけど……。独特のルビ使いも魅力のひとつで、個人的には「虚無(シャバ)い…」と「心底有難(マジアザ)っス」が好きです。

comic-days.com

桜井のりお / 僕の心のヤバいやつ (3)

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僕ヤバがヤバいことについて何かを語る必要は多分もうないと思うんですけど、ヤバいから読んでください。桜井のりお先生は人類を虐殺するつもりか? 3巻はいよいよ山田の方が我慢できなくなってる感じがすごくてアプローチがすごくてすごい、目がヤバいときがある。男子中学生であるところの市川は可愛い。市川を見るとき我々はみんな市川の夢女子になってしまう、市川は本当に頑張ってるし優しいし良いヤツだし可愛いし良い。あとパジャマのズボンがジェラピケっぽいのも良いし多分おねえからズボンだけもらったんだと思う、おねえは上をジェラピケみたいの着てるからな。3巻はLINEで始まってLINEで終わるのだが、単行本派の人はこのあと4巻でクリスマスデート編というのがあって虐殺されるから気をつけてほしいです。のりおのTwitterのマンガ(ツイヤバ)だけ読んで僕ヤバを読んだ気になっている人は本編を読もう、じっくりと関係性が変わっていって、成長していくふたりを見守ることができてヤバいので。僕ヤバはヤバい。

mangacross.jp

阿部共実 / 潮が舞い子が舞い (3)(4)

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阿部共実の群像コメディ。優しい関係性の中で、たわいもない言葉遊びが目まぐるしく展開する世界は、いつだって崩れ落ちそうな不安と隣り合わせでありながら、それを感じさせない柔らかな日常で包まれている。特に百々瀬とバーグマンのコメディタッチでありながらどこか退廃的な関係性は「あれ? おれは百合マンガを読んでいたんだっけ?」となってしまう一方で、中二病男子・右佐を中心とした和気藹々としたコメディエピソードはこの世界の優しさをあまりにもストレートに読者に叩きつけてくる。おそらく阿部共実史上もっとも優しい群像劇。騒がしいコメディリリーフに見せかけたツッコミ役の中畔が好き。

mangacross.jp

shiogamaikogamai.blog.jp

中山敦支 / スーサイドガール (1)(2)

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『ねじまきカギュー』の中山敦支先生の最新作は、人を自殺へと追い込む悪魔「フォビア」と戦う、自殺を用いて変身する魔法少女「スーサイドガール」の物語。すごいテーマ設定なのだが、愛と勢いとその他もろもろで納得してしまう不思議な力がこのマンガにはあります。「自殺装束着装(スーサイドレスアップ)首吊少女(ハングドガール)!!」とかすごい勢いがある。フォビアをうまく蹴散らして生きていきたいですね。なんとなく時代性と呼応してしまった作品。

tonarinoyj.jp

諫山創 / 進撃の巨人 (31)(32)

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どうするんだこれ……と毎月頭を抱えているのですが、ついにエレンによる地鳴らしが発動してしまってみんなどうするんだこれ……と頭を抱えているのが今年でした。進撃は時代時代にあわせていろいろなテーマを含有しているのですが、この最終章(ですよね?)に至っては、差別と迫害の歴史からどう対話を通じて呪いを断ち切るかという話では一応あると思うんだけど、対話でどうにかなるなら苦労しねえよというのがエレン・イエーガーの進み続ける理由なのでした。では自由とは何か、というのが最後の落ちになるんだと思うんですけど、始祖エレンの姿が「鳥籠に囚われた吊るされた男」だよねという指摘を見かけたことがあり、すごい皮肉だな……と思いました。ライナーかっこいいよね。歴史に残る大傑作。

shingeki.net

石黒正数 / 天国大魔境 (3)(4)

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始まったばかりのころは「たぶん面白いけどまだつかみかねるな」みたいな感じで読んでいたんですが、ようやく「これは面白いぞ」と確信を持てるところまできました。マルとキルコの冒険譚としても、「学園」の中でのホラーちっくな話もそれぞれ面白く、そのふたつの世界が交わりそうで交わらない感じがもどかしいのですが、石黒先生なので信じて読んでいけばいいんだろうという安心感はあります。スケールがでかすぎるので、頑張って完結させてほしい。

afternoon.kodansha.co.jp

田素弘 / 紛争でしたら八田まで (1)(2)(3)(4)

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いろいろな国の大きかったり小さかったりする個人や団体や企業の紛争を解決する地政学リスクコンサルタントマンガ。ややシンプルかつ分かりやすく解決してしまっているところはあるものの、地政学っておもしろ!みたいな素朴な気持ちになれて良いマンガだと思います。知性と地政。勉強しないとなといつも思っています。

comic-days.com

春場ねぎ / 五等分の花嫁 (13)(14)

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祝完結。いわゆる多人数ヒロイン型ハーレムラブコメを「ひとりを選んで穏便に完結する」のは不可能に近いと思っていて、いろいろあるわけですが、1話冒頭から「誰かを選ぶこと」が確定した状態にしておいて、それが誰かを当てるミステリの構造に落とし込んだところに、本作の肝はあります。明かされた「犯人」は、ここまでを読んでくればすべて納得できる、と思うのは、僕が彼女推しだったからという贔屓目があるかもしれません。それでも、風太郎と花嫁の積み重ねは、本当に素晴らしく、心の底から祝福できるものだったと、僕は思います。最初からすべて構築され尽くした、とても誠実な作品でした。

pocket.shonenmagazine.com

山田芳裕 / 望郷太郎 (2)(3)

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山田芳裕が異世界転生無双フレームワークでマンガを描くとどうなるか?というのが本作。コールドスリープから目覚めて氷河期により文明が崩壊した世界で現代知識無双する太郎、といいつつそんなに簡単なものでもなく、しかし着実に祭りや政治、そして「金」の概念をコントロールしていく様は恐ろしくも頼もしい。あと、言うまでもないですが、絵が良いですよね……。

comic-days.com

南勝久 / ザ・ファブル (21)(22)

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第一部完結。プロやな――――。独特の滑稽さをまとった殺し屋マンガである本作、最終決戦において本来は敵であったはずのアザミやユーカリといった殺し屋たちを含めて、みんなどこか優しさを感じる不思議な関係性が魅力でした。コメディとしても秀逸で、日常マンガを延々やっても成立しそうな気がする(というかスピンオフ『ざ・ふぁぶる』でやっている)わけですが、第2部ではどんな感じになるのでしょうか。楽しみです。

comic-days.com

施川ユウキ / バーナード嬢曰く。(5)

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すっかり町田さわ子と神林しおりの百合マンガっぽさがヒットしてしまった名著礼讃ギャグ漫画。ここ数年でシリアスな作品を数多く描いてきた筆者の状況がそうさせるのか、非常にセンチメンタルなエピソードが増えており、物語と青春、みたいな感じで読めるのでおすすめです。なのですが、5巻で最もすごいのは遠藤くんのカレンダーのエピソード。ひとりだけ筆者の別作品『鬱ごはん』の方の登場人物か?みたいな自意識のヤバさを持っていて、かわいい猫のカレンダーをみんなに見せていたら紙の端で指を切ってしまったさわ子に対し「何月で切った?」と口走ってしまうもその後挽回しようとする一連の流れは施川先生のギャグ漫画家としての天賦の才を感じずにはいられません。「何月で切った?」はあまりにも異常すぎる発言なのだが、自分でも言ってしまいそうだな……という危うさもあるあたりのバランスがすごい。

comic.pixiv.net

そのほか

『おとなりに銀河』『キン肉マン』『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』『好きな子がめがねを忘れた』『異世界おじさん』『定額制夫のこづかい万歳』『ショートショートショートさん』など。割と今年はメジャー寄りのしっかり話題となったマンガを普通に楽しんだ率が高かったように思います。良いお年を。