青春の一冊、原田宗典『スメル男』

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原田宗典という作家がいます。たしか中学生のころ『スメル男』を読んでびっくりした記憶があります。最初は「スルメ男」だとばかり思っていたという、あるあるのやつです。

自分の身体が東京中を嘔吐させるような異臭を放ち始めた無嗅覚症の男の物語。この設定だけで圧倒的に面白そうだと思いませんか。「におい」という、最もメディアで伝えることが難しい要素を、小説で中軸に据えるという発想に、当時仰天しました。思えばこの辺りから、僕は小説というものを読む楽しみに目覚めたように思います。なので、僕にとって「読書」の原体験は、原田宗典なのです。

文章を追って物語の世界に没入するという行為、幼少期には慣れが必要だろうなと思っています。なので、小学生や中学生くらいのタイミングで、どんな本に出会えるかは、重要なことです。その結果が『スメル男』でいいのかという議論はありそうですが仕方ない。

言葉だけで構築された物語に没入する最初のきっかけが、悪臭にまつわる小説だったというのも不思議な話で、ここから僕は「言葉に触れて世界を想起する」という行為の魅力に気付いたんだなあ……と思います。終盤の実験施設みたいなところでの臭い描写は今でもよく覚えていますしすごく臭そう。

その後も原田宗典の小説やエッセイは中学生のころに読み漁ったのですが(短編集にはまた違った魅力があっていいですね。『0をつなぐ』とか好きです)、近年はご存じの通り、逮捕を経て、新作『メメント・モリ』を上梓されました。こちらは死と退廃にまみれた私小説という風合いで、かつての青春小説のような方向もまた読んでみたいと思いつつ、今後どのような作品を書かれていくのか、とても楽しみです。

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