2014年、漫画ベスト50

今年も良い漫画がたくさん読めました。本当にありがとうございます。特に良かったもの上位50作品について書きます。選出条件は「2014年1月1日から2014年12月29日までに商業流通で単行本が刊行された新作」です。

昨年の様子はこちら。

では50位から。

第50位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00KR1SPRC/minesweeper96-22/

▽ 久住昌之、土山しげる『漫画版 野武士のグルメ』

『孤独のグルメ』『花のズボラ飯』の久住昌之先生のエッセイを『極道めし』の土山しげる先生が漫画化。定年退職を迎えた主人公・香住武が、昼間からビールを飲んで焼きそばを食べたり、タンメンを食べたり、麦とろ飯を食べたり、トースト定食を食べたりする漫画です。

おっさんがご飯を食べているだけなのに、なぜこんなに面白いのか。自分のことを野武士だとか言っちゃうあたりがおもしろいのか。それとも土山先生の絵だからなのか。ふと冷静になると「俺は何を読んで喜んでいるんだ……」となりますが、それはそれとしてタンメンが食べたくなります。

野武士のグルメ|原作:久住昌之/画:土山しげる - 幻冬舎plus

第49位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00PVWPJQC/minesweeper96-22/

▽ 丸尾末広『トミノの地獄』

日本が世界に誇る偉人、丸尾末広先生の最新作。「ミソ」「ショウユ」の双子が流れ流れて見世物小屋で「トミノ」と「カタン」として働き始めるというストーリーで、丸尾先生の魅力爆発な見世物小屋描写が惚れ惚れします。「ロマネスク怪奇幻想復讐劇」と銘打たれており、今後トミノとカタンにどんな悲劇が襲いかかり、そしてそれに抗っていくのか、楽しみでなりません。

ちなみに「トミノの地獄」というと、西條八十の詩ですね。声に出して朗読すると死ぬという都市伝説がありますが、内容はトミノの地獄巡り。こちらのトミノも「妹恋しと声かぎり」となってしまうのか……。

KADOKAWAオフィシャルサイト内 各ブランドページについてのお知らせ | KADOKAWA

第48位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00IXC9MJM/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00QHOW05Q/minesweeper96-22/

▽ 植芝理一『謎の彼女X』(11) (12)

祝、完結! 10年間の連載を経てついに最終回を迎えた植芝理一先生のよだれ恋愛漫画。よだれによる絆というギミックと、思春期の男の子にとって女の子はいつだって謎の存在なんだというモチーフ、この2つだけを頼りに10年も連載を続けるという偉業に、ただただ脱帽です。植芝先生お得意のフェチズムを『ディスコミュニケーション』や『夢使い』よりは少し薄めてまぶしておいて、あとはただひたすら、主人公・椿明と、ヒロイン・卜部美琴の日々を描き続ける。永遠に続くかのような、甘い物語でした。

最終回の「巨大な夕陽」は、見ているだけで涙が流れそうになります。不思議なノスタルジー。スマホはおろかガラケーすら出てこない不思議な現代日本を舞台に、いつかあった謎の恋の形が、ここには詰まっているからでしょう。謎の彼女は最後まで謎の彼女だった。そういうものなのです。

次回作も楽しみにしてます! あと『夢使い』の続きを描くっていうのもいずれやってください!

謎の彼女X|アフタヌーン公式サイト - 講談社の青年漫画誌

第47位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00M8UIY9O/minesweeper96-22/

▽ 位置原光Z『アナーキー・イン・ザ・JK』

「アオハルオンライン」→「となりのヤングジャンプ」と舞台を移して連載されてきた、位置原先生による極上の女子高生コメディ! ほとんどの方は同様だと思うのですが、たまたま見かけた吉川っちを見て「えっ単眼!?」と二度見して、読んでみたら「単眼設定まったく触れられてねえー!」となりつつ、ごく普通に単眼女子高生がわいわいやっているという、というか他のキャラの方がもっとやばいという、ああ、日本の漫画ってすげえなあ……という、そういう感じで読み始めました。Kanonの同人誌を書いてるあの人だなとも思いました。はい。

基本的にだいたいがくだらない下ネタなんですけど、特に擬人化ごっこをするカップルの話が好きです。はい。

[第2話] アナーキー・イン・ザ・JK - 位置原光Z | となりのヤングジャンプ

第46位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4040665627/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4040672275/minesweeper96-22/

▽ 吉元ますめ『くまみこ』(2) (3)

「こいつ…なれるんじゃねぇか…? しまむらマスターに!!」という通称「しまむら回」がネットで出回って有名になったアレですがアレは2巻のラストに収録されています。

ということで言葉がしゃべれてITを駆使するご神体のクマのナツと、巫女のマチが織り成す田舎コメディ「くまみこ」です。1巻の時点でユニクロのヒートテックを何らかの暖房器具と勘違いし「ヒートテックって、爆…発…」とつぶやくマチというやばい状態だったわけですが、2巻ではしまむらマスターになってるし、3巻では「センダイの人たちに石を投げられる」と田舎コンプレックスをさらにこじらせてるし、本当に楽しい。

くまみこがギャグ漫画として優れている(っていうか僕が好きな)点に「間のうまさ」と「ナツの表情」があります。まず間の取り方がうまい。独特です。なんというかテンポがおかしい。そこに何コマも使うの!? とか、そこに大コマ使うの!? とか、本当に楽しい。あとナツはクマなので表情がこう……面白いですよね。ずるい。

くまみこ 特設ページ | 月刊コミックフラッパー オフィシャルサイト
くまみこ 無料漫画詳細 - 無料コミック ComicWalker

第45位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4120046575/minesweeper96-22/

▽ 高野文子『ドミトリーともきんす』

高野文子先生の12年ぶりの単行本は「マトグロッソ」で連載された、有名科学者たちの言葉を追う物語。朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹といった面々の書籍と言葉を、毎回1つずつ取り上げて柔らかく掘り下げていきます。

彼らが住む架空の学生寮「ドミトリーともきんす」の寮長・とも子さんと、娘のきん子さんを中心にして、科学の言葉を描写していく様子は、さすがの一言。まさに科学と美術の交差点。コマのひとつひとつ、言葉のひとつひとつが名人芸といった趣です。大判サイズなので読んでて楽しい気持ちになれます。同時収録「Tさん(東京都在住)は、この夏、盆踊りが、踊りたい。」も大変グッド。

それにしても、マトグロッソはもともと、Amazon.co.jp内のWeb文芸誌としてスタートしたサイトです。最終的に取り上げている科学書をAmazonで買おう、というふうにつながる企画を、これだけのものに仕上げたという点も、地味に驚愕です。

『ドミトリーともきんす』]
『ドミトリーともきんす』科学者の本棚 | Matogrosso

第44位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JR0Q13Y/minesweeper96-22/

▽ 阿部共実『ブラックギャラクシー6』

阿部共実先生は鬱話の人みたいに認知され始めている気がしますが、実は「あずまんが大王」的な女の子たちがだべっているだけのコメディもよく描いていて、本作はそのひとつです。人見知りの主人公・ギドラが、高校で友達っぽい人(カレルナ)ができて、部活を作って、青春してる!みたいな気持ちになりながらだべり続けるというだけの話です。

本当に何でもないコメディなのですが、描いている人が人なので、いちいちヒヤヒヤするし、いちいち言語感覚がおかしいし、困ります。ギドラとカレルナによく似た2人の悲劇を描いた『空が灰色だから』最終回を読んだ後、このブラギャラの最終回を読むと、人生とはどう転ぶか分からないものだなあ……と思います。

くだらない会話を読んで、笑って、コメディとして終える。それがどれだけ奇跡的なことなのか。阿部共実作品を読むものであれば、その意味が理解できるはずです。

ブラックギャラクシー6 | 秋田書店

第43位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00MA4ZH0M/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00QI7HXHM/minesweeper96-22/

▽ 竜騎士07、夏海ケイ『うみねこのなく頃に散 Episode8: Twilight of the golden witch』(5) (6)

同人ゲーム「うみねこのなく頃に」のコミカライズもいよいよ大詰め、最後の2つのエピソードである「Episode7」と「Episode8」が同時連載されています。原作以上に突っ込んで、原作ではあえてぼかしてあった「身も蓋もない真相」までガンガン描写しており、いよいようみねこも終わりか……という気持ちでいっぱいです。

「真実」とは何か。誰かに「これが真実」と告げられれば、はいそうですかとなるのか。現実世界に、真実を保証する術などない。ならば、閉ざされた真実を探すことに何の意味があるのか……。そんなことを考えながら、このEpisode8を読んでいます。6巻では、原作でも一切明かされなかった「黄金の魔女の自白」が、考えうる限りパーフェクトな形で描かれました。夏海ケイ先生お見事です。

さて、結末はどうなるのか。原作では選択肢で2つに分かれていました。僕はどちらもたまらなく好きです。どう終えるんでしょう。楽しみです。

うみねこのなく頃に散 Episode8:Twilight of the golden witch ガンガンJOKER -SQUARE ENIX-

第42位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JMAIMOU/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00M3OEJCG/minesweeper96-22/

▽ おおひなたごう『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』(2) (3)

おおひなたごう、いつの間に、グルメ漫画を描くようになったんだ……! と思ったけど中身はいつものおおひなたごう先生です。

タイトルにもあるように「目玉焼きを食べるとき、黄身をいつつぶすか」といった、些細だけれど人によって異なる「食事のときのこだわり」の差異をギャグ化した、天才的な発想の漫画です。主人公の田宮丸二郎はちょっと納得のいかない食べ方を見せつけられるとすぐキレるので、恋人のみふゆとすぐケンカをしてしまうわけですが、二郎の上司である雄三に諫められ、そうかそんな食べ方もあるのか……と丸く収まる、というのが基本線です。ちなみに僕は二郎の食べ方に共感することが多めです。

ショートケーキの苺はいつ食べるか、焼き鳥は串から外すか、おにぎりはどう食べるか、立ち食いそばのかき揚げはどう食べるか、パンケーキはどうやって切るか……。そんなことを繰り返しながら、3巻ではついに、みふゆが、みふゆが……。みふゆが……ッ!(泣いてる)

食べるということ。ただそれだけなのに、自分と相手は違う人間だと思い知らされる。嗚呼、これが人間であり、これが生きるということなのだ……(※ギャグ漫画です)

あ、NHKでやったアニメも良かったですね。

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NHKアニメワールド 目玉焼きの黄身 いつつぶす?

第41位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4592710681/minesweeper96-22/

▽ panpanya『蟹に誘われて』

昨年発表された傑作『足摺り水族館』に続く新作。白泉社「WEB楽園」にて発表された短編を中心としつつ、過去の同人誌作品も収録されていてたいへんお得です。

panpanyaさんの漫画は夢の中のような感覚を読む者に提供してくれます。夢の中を彷徨って、蟹を追い、喋る魚を捌き、ココナッツを割り、パイナップルの謎を探り、オオサンショウウオを捕獲し、街を歩き回る。夢から覚めたら何も覚えていない。空虚な読書体験はまさに白昼夢。事実、読み終わった後、ほとんど何も覚えていません。

電車に乗っていたら寝ぼけて誤って「駅前商店街前駅」で降りてしまい、不思議な街で迷うことになる「方彷の呆」が一番好みです。「どこだここ。どこだここ…うわあーどこだここ! あーっ」のシーンがたまらなく好きです。寝ぼけていたら、よく分からない場所に降り立ってしまい、どこだここと泣いて走る。たまらなく好きです。

http://www.hakusensha.co.jp/comics/data2/9784592710684/

第40位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JX8DVHY/minesweeper96-22/

▽ 山川直人『夜の太鼓』

山川直人先生は比較的やわらかい口当たりで、でもちょっとコワイ、という作風の人なのですが、本作はちょっと珍しい仕上がりです。エスパーになろうとしていたらいつの間にか老人を介護していたという、あらすじを書いてもまったく何が何やら分からないけどそういう話なんだ仕方ないだろという中編「エスパー修行」がとてもとても不気味で、いったいこの人の頭の中はどうなってるんだろうと思います。

そしてやはり、最も注目すべきは「バートルビー」でしょう。『白鯨』で有名なハーマン・メルヴィルの名作同名小説をコミカライズした作品です。法律事務所を営む男が、新人として働き始めたバートルビーの半生を振り返る、とても孤独で静かな物語を、山川節の絵と展開でぐいぐい読ませます。バートルビーの顔はもう山川絵じゃないと納得できないという気すらしてきます。

「そうしない方がいいのです」、配達不能郵便のシーン、そしてラストの「…人間」。パーフェクトです。

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月刊コミックビーム

第39位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00M3OEJXK/minesweeper96-22/

▽ 五十嵐藍『ワールドゲイズ クリップス』(3)

世の中的には『鬼灯さん家のアネキ』の方が有名そうな五十嵐藍先生の低血圧ダウナーオムニバス漫画。もう3巻かよ。

お話作りがどんどん巧妙になってきていて、今回はライトなラブコメっぽい「アイ・ニーヂュウ・ソー」に始まり、ある夜の4つの物語がそれぞれ進行する「深夜のコメディ」を経て、初めての徹夜の物語「tongiht」で終わります。すべて「夜」と「不安」を抱えており、なんとなく、客が5人くらいしかいない深夜の映画館のレイトショーでひとり一気に映像で観たいなーという気持ちにさせられました。

ラストの「tonight」で静かに語られる言葉がすべて。孤独な夜の現実をどう生きるか。夜の剥ぎ方を教えてくれる1冊です。不安な夜もこれで安心。

「ワールドゲイズ クリップス (3)」 五十嵐 藍[角川コミックス・エース] - KADOKAWA

第38位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4803005745/minesweeper96-22/

▽ 武富健治『惨殺半島赤目村』(2)

完結。「ほんまの祭りは、おそろしいもんなんやでェ!」

閉鎖的な村で人間関係に悩みつつも謎の事件や村の暗部が出てきちゃって困っちゃうサスペンスもの(なお主人公はサイコメトラー)というどんだけ濃い設定を詰め込んだら気が済むんだお前という1巻だったわけですが、2巻はヒロインぽかった秋奈さんが大方の予想通り本性を表しつつ、人は死にまくるわ主人公は牢屋で下痢になるわ謎の儀式は始まるわ学校の先生は化け物みたいになるわ最後の戦いは能力バトルだわラストはお決まりの村崩壊だわと、なんだこの懐かしのB級邦画のノリは! 最高だな! 映画だとスタッフロールが流れてるであろうあたりでのまったく必要性のない美しくないキスシーンとかもうね……。

いちいち絵もセリフも展開も濃いのでお好きな方だけどうぞ。

http://comic-earthstar.jp/author/detail32.php

第37位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00HKKOP36/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00KQCZW1E/minesweeper96-22/

▽ 押見修造『惡の華』(10) (11)

完結おつかれさまでした。

山に囲まれた町で始まった物語は、海辺の町で過去と向き合って終わり、再び山の中で始まる。終わり方はいろいろと賛否両論ありそうですが、良かったんじゃないですかね。「よかったね。そうやってみんなが行く道を選んだんだね」「二度とくんなよ。ふつうにんげん」。良い。

どうでもいいですが千葉の海辺のアジは美味しいのでアジフライ食べた方が良いと思う(せっかく頼んだアジフライ定食、食べてなさそうなので)。

週刊少年マガジン公式サイト | マガジンファンになろう!

第36位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00IWMBDP4/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00LL5KTHM/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00PC2LHAS/minesweeper96-22/

▽ 諫山創『進撃の巨人』(13) (14) (15)

Q. 進撃、今年は何やってたの? A. クーデターしてた。

Q. エレンは活躍したの? A. 巨人実験がうまくいかなくて、あとはだいたいさらわれてた。

大丈夫なのかこれ。

巨人の正体、政府の真実、リーブス、ケニー・アッカーマン、そしてヒストリア。こう書くと今年もいろいろありましたね。ネタっぽく書いたけど、相変わらず面白いです。しかし、王の血筋の力があればなんかいろいろ解決しそうな感じがしてきたので、ヒストリアどうなるのかなと心配。

進撃の巨人 作品公式サイト

第35位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00QAQEOSW/minesweeper96-22/

▽ コトヤマ『だがしかし』(1)

2014年最大のサプライズはこれだ。異論は認めない。サンデーやるな!

グルメ×なつかし感×うんちく×かわいい女の子×うすた京介っぽいギャグ、という「なんだその悪魔合体」感を形にしたらこうなった。すごい。すごすぎる。毎回、なつかしの駄菓子が出てきて、うんちくが出てきて(ちゃんと許可とって取材してるらしい)、それをかわいいけどアホなほたるさんと突っ込み役だけど実はアホなココノツがハイテンションで食べながらギャグやってる。以上だ。なんだこれ、すげえ面白い!「水曜日はサンデー!」の作者Twitter宣伝絵とともに楽しみましょう。

ココノツの父・ヨウ、ココノツの友人・豆くんとその妹・サヤといったサブキャラもたいへん良く、キャラの立ったコメディとしても読める素晴らしい漫画です。でもやっぱりうすた京介だよなこれ。

http://websunday.net/rensai/dagasikasi/
サンデーうぇぶり

第34位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091858775/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091862845/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091866689/minesweeper96-22/

▽ 花沢健吾『アイアムアヒーロー』(14) (15) (16)

このゾンビ漫画は展開がゆっくりしています。ゆっくりです。でもときどき、突然、急展開を突っ込んできます。何のためらいも無く、何の心構えも許さず。

15巻の表紙を見ているだけで辛くなってきます。

それはそれとして、一応「英雄とクルス、選ばれた者」の話や、「ZQNは何者なのか」という方面も少しずつ謎解きを進めつつ、長かった「英雄、比呂美、つぐみ」の3人の物語は転機を迎え、まさかの中田コロリ編へと突入していきます。2015年は中田コロリ編で1年やりそうな気がしますが、既にかなり面白いのでそれでもOKです。あと実写映画ですね。はい。ゾンビ映画。はい。

I Am A Hero - The Movie | IAMAHERO

第33位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00O438BJG/minesweeper96-22/

▽ クール教信者『おじょじょじょ』(2)

お嬢様と変人の恋物語、第2巻!

付き合い始めて少し距離が縮まって、ツンデレお嬢様・地獄巡春は少しずつ成長していきます。そしてやがて、彼女の友人・天道紅との関係性にもばっちり決着を付けます。クール教信者らしい、こっ恥ずかしいストレートな青春ストーリー。そしてひとり「何もできなかったな」と落ち込む彼氏・川柳徒然。ああああああああ川柳くんかわいいよおおおおおおおお。

ちゃんと彼氏をやろうとして、自分も強くならなければと思い、ちゃんと地獄巡さんを見続けて、それでも何もできなかったと悩む素直クールな川柳くんを見てるだけで幸せになれるので、素直クールな少年の無表情な顔の下の懊悩が大好物な人はぜひ読むと良いよ。不器用な恋は正義だ。

川柳くんの作り笑いかわいいよおおおおおおおおおおおおお(↓で見られます)

竹書房4コマコミック総合サイト | 4コマ堂 » 「おじょじょじょ」2巻、本日発売!

第32位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JTR59YM/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00MTIUJOS/minesweeper96-22/

▽ 押切蓮介『ゆうやみ特攻隊』(12) (13)

押切蓮介先生ファンにとって辛い年となった2014年ですが、ゆうやみが素晴らしい形で完結したという事実は喜ぶべきことでしょう。

ホラーギャグでデビューし、純粋なホラーからバトルもの、ゲームコメディ、そしてゲームラブコメまで手掛けることに成功した氏の、バトル漫画としての最長作品となった本作『ゆうやみ特攻隊』、終盤はもう完全に超常バトルになっておりましたが、そのひとコマひとコマ、セリフのひとつひとつから、これが描きたいんだという意志が読者に襲いかかってくるような、そんな見事なラスト2巻でした。

みんなの想いを背に、敵を倒す。あまりにもベタな少年バトル漫画展開を、最後まで描き切って、ハッピーエンドで終える。本当に、お疲れさまでした。

『ゆうやみ特攻隊(13)<完>』(押切 蓮介)|講談社コミックプラス

第31位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4199503765/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4199504095/minesweeper96-22/

▽ ninikumi『シュガーウォール』(1) (2)

BLではない。表紙の右の人は女子大生だ。

両親を10年前に亡くし、そしてこのたび姉を亡くしてひとりぼっちとなった高校生・ゆんちゃんは、幼なじみの黄路に再会する。弁当を作ったり家を掃除したりと甲斐甲斐しく世話を焼く黄路は、いつの間にか勝手に合鍵を作り、ゆんちゃんが外でご飯を食べてきたというと「じゃ、吐こっか」と吐かせるヤンデレさんだったのだ! ところがそんな黄路を「変なやつだな」程度ですませ、普通に受け入れるゆんちゃんの方がさらにぶっ壊れていたという事実! 僕はこの漫画を「ぶっ壊れ恋愛版ゴジラ対キングギドラ」と呼んでいます。

「黄路の父をゆんちゃんが殺した」という、黄路の内面を形作る過去を巡る物語は2巻でケリがつくので、ここで終わっても良いんじゃないかと思ったんだけど、まだ続くみたいです。なにやるんだろう? 「じゃ、吐こっか」以上のプレイを見せてくれるんですか!?

シュガーウォール|月刊COMICリュウ

第30位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4107717623/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4107717631/minesweeper96-22/

▽ まん○画太郎『ミトコンペレストロイカ』(1) (2)

人類の至宝である漫☆画太郎先生の最新作は、かつて未完に終わった『ミトコン』のリメイク。ペンネームもバカでも読めるように一部がひらがなになりました。やさしい。

画太郎先生は実は可愛い女の子が描けるというのは有名な事実ですが、本作ではそんな画太郎先生の描いた可愛い女の子が、画太郎先生らしからぬ本格冒険ファンタジーを展開しつつ、あとはだいたいいつも通りです。

http://comic.pixiv.net/works/780

第29位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088800931/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088801229/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088802446/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088802519/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088803795/minesweeper96-22/

▽ ゆでたまご『キン肉マン』(45) (46) (47) (48) (49)

毎週、日曜の夜になると、深夜0時を待ちます。月曜になった瞬間、サイトを更新します。するとどうだ。キン肉マンの新しい話が読めるではないか。これを幸福と言わずになんと呼ぶ。

2014年は完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)の話も一段落し、ついに我らが将軍様こと悪魔将軍と悪魔六騎士が、完璧超人始祖(パーフェクトオリジン)と激突! 堅物だけど良いヤツなミラージュマン、ワイルドでちょっとアホだけど部下から慕われているアビスマン、相手を小馬鹿にしたような態度だけど実は高潔な武人のペインマン、「私は変身などしなーい!」で2014年もっとも面白いセリフ大賞を受賞しそうな勢いだけどストレートに強いガンマン、やっぱり生きてたかーなグリムリパーことサイコマン、「マッ」ことシングマン、手下のカラスのネバーとモアには何の意味があったのか分からないカラスマン……と、もう始祖の皆さん全員良いキャラしすぎていて、やっぱりゆで先生は天才だ……と思わずにはいられません。

まさか今になって実は完璧超人始祖だったという神設定が明かされた悪魔将軍のファイトに興奮し、ジャンクマンのカッコ良さに惚れ、スニゲーターに泣かされ、プラネットマンに笑わされ、サンシャイン最高と声を上げ、ザ・ニンジャに心震えるとは思いませんでした。そして物語は最後の1人同士、あのアシュラマンが、あの(かつて数コマだけ登場した、設定だけの存在だった)裁きの神ジャスティスことジャスティスマンとの戦いへ……。2015年も目が離せない! あとネメシスまだ到着してないってどんだけ飛ぶのが遅いんだよ!

ちなみに各所で予想されていますが、もしジャスティスマンが勝利すると、最終決戦は「始祖たちの頂点あやつマン=超人閻魔=ストロング・ザ・武道(いや一応、作中ではこのイコールは確定してないけど)」「裁きの神ジャスティスマン」「ネプチューンキングの師匠でマグネットパワーの使い手サイコマン」「無量大数軍の最後の1人にしてキン肉一族と思われる謎の超人ネメシス」「なんか変な強いおっさんガンマン」の5人が敵ということになるわけで、ひとりおかしい人いるし、すごい盛り上がりになりそうです。

http://bookstore.yahoo.co.jp/free_magazine-136077/

第28位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00KCL6PE2/minesweeper96-22/

▽ 山上たつひこ、いがらしみきお『羊の木』(5)

完結!

刑期を終えた元受刑者たちを移住させる極秘プロジェクトの舞台となった魚深市。市長の鳥原とその協力者たち、そして11人の元受刑者たちの物語は、結局のところ、元受刑者たちよりも困った者が現れる一方、元受刑者たちも街にとけ込んでいく者あり排除される者ありと、単純に線引きできない複雑な世界を紡いでいくこととなりました。つまりこれがこの世界であり、私たちの生きている社会なのだ……と。そういう物語です。

「世の中には自分に勝てるヤツと負けるヤツの2種類しかいねえんだ」「おめえはず〜〜っと負けるヤツさ」

「負けたっていいさ、居場所があればな」「人は居場所さえあれば生きて行けるもんだ」

「だけどおめえの居場所はここにはねえんだろうよ」

かつて流刑人たちが流れ着いた町であった魚深。鳥原の協力者であった月末と大塚は、流刑人の末裔だった。罪を犯した者たちはどう生きていけばいいのか。とけ込んでいく者もいる。排除される者もいる。そして、新たに罪を犯す者もいる。そうして、生きていく。私たちの生きる社会とは、そういうふうにできている。とても優しくて、残酷な物語でした。さすが山上たつひこ先生。そしてさすが、いがらしみきお先生でした。

羊の木|イブニング公式サイト - 講談社の青年漫画誌

第27位

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▽ 雨隠ギド『甘々と稲妻』(2) (3)

ずるい。ずるすぎる。うう、ずるい……。

今年も「このマンガがずるい!」と叫びたくなるようなご飯作り親子漫画であった『甘々と稲妻』でございます。なんで読みながら泣きそうになってんだろう俺。お父さんと、娘。彼らと共に料理に挑戦して一緒にご飯を食べる少女。力を合わせて、ご飯を作って、食べて、日々を過ごしていく。なんて幸せなんでしょう。なんて、なんて……。

2巻の、娘・つむぎが祭りの途中に迷子になる話がたまらなく好きです。「目を、はなしたから」迷子になってしまった。そう、人は、目をはなしたら、いなくなってしまうのだ。もう帰ってこない、死んだ妻のように。「もう勝手にどこかへ行かないって約束守れるよな?」と娘に言う犬塚先生の脳裏には、いったい何が浮かんでいたのでしょうか。

遺された者は、生き物を殺して、ご飯をたべて、生きていく。3巻でつむぎは魚を捌く様子を見て、興奮して言います。「あれがっ、こーなって、ここにきてっ」「こわいし、おもしろいし、すごいんだよっ」。そうやって生まれて生きて、死んでいく。世界は、すごい。

読み返すたびに泣いています。

甘々と稲妻|アフタヌーン公式サイト - 講談社の青年漫画誌

第26位

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▽ 横槍メンゴ『クズの本懐』(3) (4)

みんな気をつけろ! ここにはクズしかいない!

片思いの相手同士が付き合っていて、仕方ないので契約上の恋人という関係を続ける花火と麦。ところが麦の片思いの相手である茜さんはクズだった! なお読者も麦本人も知ってた。かくして人間のクズであるところの茜さんを打ち倒すべく、花火のクズへの道が始まったのだった。なんか違う気もするけどそういう感じです。わぁいクズしかいない。徹頭徹尾、男が人間扱いされていなくて最高に良い。

花火はクズになろうとして周りのすべてを利用してどろどろに堕ちていきながら茜さんに対抗していくけど、そんな彼女が唯一「利用できない」と思う相手、それが同級生の女の子えっちゃん。なぜって? えっちゃんは花火のたったひとりの友達だからさ。ところが花火が大好きな百合っ子えっちゃんはすべてを理解したうえで「利用くらいしてよ」と笑って、昏い想いをさらけ出して花火に熱と快楽を与え続ける。えっちゃん幸せになってほしい。本当に。切実に。あたい、もうえっちゃんしか見えない……。

心と体は別物で、人はクズに成り切ることすらできずに堕ちていく。最高!

クズの本懐 | ビッグガンガン | SQUARE ENIX

第25位

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▽ 山本直樹『レッド』(8)

連合赤軍の物語を描く本作『レッド』もついに山岳ベース事件の中盤、1971年12月31日まで来ました。

「総括しろ!」という言葉とともに、仲間を殴る。ひたすらに、ただひたすらに。そして死ぬ。最初の犠牲者が出る。引き返せない場所でつぶやく。「今頃は紅白歌合戦やってる時間ね」と。

ついにここまで来ました。そして、ここからの展開は誰もが知っていますよね。ただひたすらに、総括しろと叫びながら、死んでいく。少しずつ壊れていく、あるいは、もうとっくに壊れている閉鎖的なコミュニティの絶望を淡々と描く山本直樹という人物に、恐れにも似た感情を覚えます。

連載の方は「最後の60日 そしてあさま山荘へ」というサブタイトルがつきました。カップヌードルを食べながら待ちましょう。

レッド|イブニング公式サイト - 講談社の青年漫画誌

第24位

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▽ 鳥飼茜『先生の白い嘘』(1) (2)

性と権力。

生物学上、男である僕が何よりも刺さったのは「アンタが怖いのは男に生まれてしまった自分自身よ」というセリフです。女性が読むのとは恐らく違う部分で勝手にダメージを受けています。

なぜ男と女は在るのか。なぜ自分は男なのか。なぜその暴力性に気付かぬまま生きてしまうのか。この理不尽な世界を、自覚せぬまま力だけを肥大させる男どもに叩き付ける。ザクザクと切り刻まれるような作品です。しかしどう決着させるのかこれ。血反吐を吐きながら期待しています。

先生の白い噓 / 鳥飼茜 - モーニング公式サイト - モアイ

第23位

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▽ 宮崎夏次系『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』

宮崎夏次系の良さが分からない人生でした。『変身のニュース』も『僕は問題ありません』もさっぱり口に合いませんでした。ところが、同じようなオムニバスである本作は、たまらなく好きになりました。不思議ですね。

特に好きなエピソードは2つ。1つ目は「リビングで」。ある日、犬になってしまったお父さんと、家族の物語。息子は言います。「おとーさんが変になって良かった」。辛いことがあったなら、変になればいいのだ。変にならない方が、よほど辛い。「嫌だったのずっと」「ばーちゃんが死んでもキヨサダが死んでもみんな大丈夫になっていくのが」「ずっとそれがずっと嫌だったから僕ずっと」「うまく言えない」。大丈夫になっていくことの恐ろしさ。大丈夫になっていくものだという諦観。それに抗ってくれる変になった父。これが救いでなくてなんなのか。

もう1つは「わるい子」。わぁい百合(だいなし)

夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない / 宮崎夏次系 - モーニング公式サイト - モアイ

第22位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091245927/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091247695/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091254896/minesweeper96-22/

▽ とよ田みのる『タケヲちゃん物怪録』(5) (6) (7)

とよ田みのる先生は、本当に優しい世界を描く名手です。稲生物怪録をベースに、呪いによって不運が降りかかる運命にある不幸な少女と、妖怪なのに人を幸せにすることしかできないというコンプレックスを持つ座敷童という奇跡の組み合わせによる優しい物語は、最後まで優しいままで終わりました。

滝夜叉姫というキャラがいます。とよ田先生お得意のスターシステムでどこかで見たようなお顔ですが、彼女はタケヲに言います。「つまらぬ人間になったな。以前タケヲの心の内に入った時、その中は荒涼たる砂漠だった。そのほとんどは望みも無く、救いも無く、ただ漠とした美しい虚無の世界だった」「それが今ではどうだ?」「貴様は弱くなったのだ」「花が咲いた程度で『幸福』になる者は花が散った程度で不幸になるものさ、何も喜ばしい事ではない」。自らの不運を受け入れていたタケヲは、いまでは妖怪たちに囲まれて幸福を見つけ、弱くなりました。それでもタケヲは花が咲く瞬間を見つけ続けるといいます。だから滝夜叉姫は死の間際、遺言をのこせたのでしょう。世界が輝きに満ちているなど戯言だ。でも、人が豊かに生きるためには、戯言こそが肝要なのだと。

幸福とは何か。優しい世界を描き続けてきたとよ田先生の結論は如何に。世界は美しい。

タケヲちゃん物怪録 7 | 小学館

第21位

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▽ 島田虎之介『九月十月』

家、家族、光と影。

もう何度も読み返しているけれど、この白と黒で構成された静かな物語は、大きなドラマと言えば「離婚しようと思う」という娘の言葉と引っ越しくらいであり、淡々と続く日々にどのような意味を読み取れば良いのか戸惑います。ところが、そうした人間たちの物語の背景、誰もいない風景の絵が、あまりにも豊かであり、ここまでミニマルに要素を削ぎ落としたストーリーでありながら、なぜここまで豊かに世界を描けるのだろうと驚愕します。

静謐な世界で、人は淡々と生き、それとは無関係に世界は豊かにそこにある。ありとあらゆる言葉を無力化する壮絶なミニマル絵巻。緊張感と安らぎを同居させたような絵の連続は、一種の美術作品のようにも、白黒の無声映画のようにも見えます。美しい本。ため息が止まりません。陳腐な言葉ではこの本をとても表現しきれない。現代漫画表現の極北。あと100回くらい読み返します。

九月十月 | 小学館

第20位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00OA1SWMS/minesweeper96-22/

▽ 野村宗弘『うきわ』(2)

友達以上、不倫未満。ともにパートナーの不倫を自覚する者同士の、ベランダの防火扉越しの物語は、とうとうお互いに惹かれ合っていることを誤摩化しきれないところまで来ました。互いが互いを救う浮き輪となって、でも壁をやぶったらお互いの相手と同じことをしているだけ。うきわ/うわきの文字遊びと、野村宗弘流のコミカルな表現に支えられつつも、息が詰まるようなコマの連続に、「ああっもういいから押し倒しちゃえよ!」と何度叫んだことか。いや押し倒しちゃまずいんだけど。

「緊急時にはこの壁を突きやぶって隣りへお逃げ下さい。」

「この壁は理性を保つ防護壁。」

「この壁を突きやぶったらあとは知らん。」

いま、読んでて一番ドキドキする恋愛漫画です。オススメですよ! 恋愛、始まりもしないけど! 基本はベランダ越しの会話だけど!

http://yawaspi.com/ukiwa/

第19位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00QPSXEJK/minesweeper96-22/

▽ 施川ユウキ『おかえりなさいサナギさん』(1)

サナギさん復活! 昨年『オンノジ』という大傑作を世に放った施川ユウキ先生の代表作『サナギさん』が帰ってきました。

サナギさんと、親友のフユちゃんと、友達たちの言葉遊びの連続。ただそれだけで延々と4コマ漫画が紡がれていく。笑う。とにかく笑う。日本語とは、こんなにも多種多様に遊べるものだったのかと感動しながら、ただひたすらに笑う。他には何もない。それだけで幸せになれます。施川ユウキはすごい。本当にすごい!

合間合間にある施川先生のエッセイもまた良い。蚊を撃退するグッズ、名刺、おもしろい名前、歯医者、飛行機……。身近なものへの、斜めから見た視線。普段からこういうことを考えているとこういう漫画が描けるのか……と納得です。

おかえりなさいサナギさん | 施川ユウキ

第18位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00OR4PJTM/minesweeper96-22/

▽ コージィ城倉『チェイサー』(2)

手塚治虫をライバル視し、彼を追いかけ、彼のやることを真似する漫画家・海徳光市のコメディ第2巻。

もともとこれは、海徳光市というフィルターを通して手塚治虫を描写するという手塚モノ漫画のひとつだったはずなのですが、もう僕には完全に海徳しか見えません。なぜなら彼は、手塚をライバル視しつつも敵わないといつも思いながら、それでも食らいついて、漫画を発表して、評価され、アシスタントを雇い、結婚し、家を買い、子供ができ、新機軸の企画を発案し……そう、まさに手塚に食らいつかんとして、結果としてどんどん先に進んでいく。コンプレックスの塊のような海徳の姿は、おそらくはすでに、同時代の他の漫画家からすれば、手塚同様に「すごい漫画家」として見られているのではないか……と思います。

創作者としての海徳の姿は、あまりにもまぶしい。チェイサーとして手塚を追ってどんどん前に(無自覚に)進んでいく彼の姿を、読者はチェイサーとして追い続ける。嫉妬を原動力に、負けず嫌いを推進力に。もちろんそれは、さまざまに語られてきた手塚自信の姿と重なります。こうした多重構造を持つ本作がどこまでいくのか。手塚に追いつくときは来るのか。そして、いずれ来る手塚の死を、海徳はどう受け止めるのか……。読者に許されるのは、ただ、彼を追い続けることだけなのです。

http://big-3.jp/bigsuperior/rensai/chaser/

第17位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00KMHSJIQ/minesweeper96-22/ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00R3XZNEK/minesweeper96-22/

▽ 三部けい『僕だけがいない街』(4) (5)

正義のヒーローとは何か。守るとは何か。この事件の「終わり」とは何なのか。

犯人の策略にはまり、逮捕されるその瞬間、またしても「再上映(リバイバル)」を起こして再び1988年へと帰ってきた藤沼悟。今度こそと東奔西走する悟は、ケンヤという味方を得て、ついに雛月を救うことに成功します。さて、では、どうなる? 2006年に戻らない。雛月を救ったこの世界を、生きていくしかない。あのアイリとはもう会えない。そうやって誰にも知られないままの正義の味方は、未だ見つからぬ真犯人を追い、事件を未然に防ぐという新しい戦いに身を投じます。

本作は一応ミステリ仕立てになっていて、真犯人は誰なのかという推理を楽しむこともできるようになっていますが、果たしてここからどう料理するのか気になります。真犯人が誰かより、実際のところ「どうやって最終的にハッピーエンドへ至るか」の方が重要なので。それにしても「僕だけがいない街」っていうタイトルがフラグすぎて怖いですね。

「僕だけがいない街 (1)」 三部 けい[角川コミックス・エース] - KADOKAWA
僕だけがいない街 無料漫画詳細 - 無料コミック ComicWalker

第16位

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▽ 町田洋『夜とコンクリート』

とにかく「青いサイダー」の完成度が高い。すべての線を直線で描いたこの物語は、あまりにもすごすぎる。

主人公の少女「僕」は、想像の中で孤島のような姿をした友人「シマさん」との日々を過ごす。そんな彼女の住むマンションの屋上には、いつも不思議な男性「センニン」がいる。2人は屋上で、角張った空と雲を見上げながら語り合う。

少女が幻視したイマジナリーフレンドの正体。過ちを犯した男の長い長い年月を経た歪んだ贖罪。大人になることへの緩やかな肯定。よく考えると、センニンの行動はあまりにも歪んでいます。だって、父を殺したのはセンニンなのだから。あまりにも身勝手な贖罪。にも関わらず、結果として「僕」は救われ、物語は美しく終わる。

なぜこんな物語が描けるのか。信じられない。『惑星9の休日』でも思いましたが、この人の描く物語は、明らかにおかしい。圧倒的なものを見て思考が停止するような感覚。早く、早く新作を……頼む……。

それは眠りの図像のような。町田洋『夜とコンクリート』 - From The Inside
夜とコンクリート

第15位

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▽ 阿部共実『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』(1)

『空が灰色だから』の流れを汲むオムニバス作品ですが、Web連載ということもあって、ページ数はバラバラ、内容はよりフリーフォームに、物語はより重層的に。

ホラーと思いきやコメディな第1話「お前がどんな姿、形をしてようとも」、コメディと思いきや良い話になったと思いつつ最後の1ページで落とされる第2話「一旦だけ一旦だけでも」、ズレを楽しむギャグのように読めるけどよく考えると視点キャラが一番ひどい第3話「がんばれメガネ」……と、ひとつひとつのエピソードが複雑な構造をとるようになっており、1冊全体を通しても比較的コメディの多い明るめの作品なのに、なぜか病的で、躁鬱が激しいようにしか見えず、不気味です。

阿部共実作品史上もっとも辛いエピソードの1つ、第8話「おねがいだから死んでくれ」は、読み返す度に辛くなります。

「何が全部つまらないだよ、お前が物事を楽しむ感受性が欠乏してるんだろ。つまらないのはお前だよ。なんなのねえ? そういうの流行ってるの? 人気の漫画とかテレビとかわざわざつまらないって押しつけてくるの。薄っぺらいんだよ何もかもお前は。かわいそうな奴」

「世の中をおもしろいって思えるならオレもそっちに連れていってくれよ! おもしろいことをオレにも教えてくれよ! なんでみんなしてオレをのけ者にするんだ!」

なぜ自分だけ、なぜそちら側にいけないのか、なぜ、なぜ、なぜ……。あまりにも悲痛な叫びです。死という文字があふれ、ただの記号にしか見えなくなってきて、それでも彼は「おねがいだから死んでくれ」と叫びます。絶望の形。人と人は、分かり合えない。

最後に、個人でWeb公開して読者を激しく困惑させた「1/4黒ニーソメガネ児童液」が収録されています。こちらもまた、コミュニケーションは不可能で、人と人は分かり合えないということが端的に描かれる傑作です。

おねがいだから死んでくれ。阿部共実『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』1巻 - From The Inside
死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々 | 阿部共実

第14位

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▽ 田島列島『子供はわかってあげない』(上) (下)

計算づくの完璧な構成。脱帽。

サクタさんともじくんの、とても爽やかなガール・ミーツ・ボーイ……というのが本作の概要であり魅力でもありますが、しっかりとそのベースに、あるテーマが敷かれています。詳しくはポンコツ山田.comさんが完璧な解説を描かれているので、ぜひとも読んでほしいです。いやはや、この見事な批評っぷり、さすがの一言です。

『子供はわかってあげない』交換によって生まれる人と社会のつながりの話 - ポンコツ山田.com

もじくんの元兄/現姉の探偵・明大と、彼女の家主である善さんは、この作品を象徴する存在です。明大は今では女だけど元は男なので、2人は子を生すことができません。そこで善さんは明大に何かを与え、明大はサクタさんともじくんに何かを与える。社会をつないでいく。善さんが終盤で読んでいる『うすら悲しき熱帯』は、クロード・レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』のパロディですね。レヴィ=ストロースといえばおなじみ、人類は女性を「外の家に嫁に出す」ことで、つまり女性を交換していくことで、社会を広げていった、というアレです。これが正しいかどうかの議論は置くとして、つまりはそういうことです。

もちろんこういうことを考えずとも素直に読むだけでも非常によくできているお話なのですが、多種多様なパロディと構造を見ていくと、いろいろ仕掛けてあるなー、という作品でした。ちなみにパロディネタで一番好きなのは「何ズンズン調査してんの」でした。ホリイのずんずん調査、好きだったんですよ……。

子供はわかってあげない / 田島列島 - モーニング公式サイト - モアイ

第13位

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▽ 山本周五郎、望月ミネタロウ『ちいさこべえ』(3)

山本周五郎「ちいさこべ」を現代劇にアレンジしてコミカライズというとんでもない企画も3巻目です。

実家の工務店「大留」が焼け、両親を亡くした若頭領・茂次。頑固な言動ゆえの誤解が解けるエピソードで始まる3巻は、誤解と意固地に塗れています。それを救うのはコミュニケーションしかなく、「うまく言えねえが、言葉を交わすしかない」という、とても当たり前で素直な和解の形が描かれます。物語自体は1957年に発表された、しかも江戸時代を舞台とした時代小説だというのに、このあまりにも当たり前な人間のルールが、今なお現代劇として通用してしまうという事実に驚きます。山本周五郎のすごさを感じるとともに、人間はそう簡単に変わらないなという感想も持ちます。

終盤、茂次の幼なじみで今は大留を手伝う「りつ」が世話をする、身寄りをなくした子供たちのうちの1人が、町で万引きをするという事件が起きます。場を収めた茂次は、万引きをした少年に向かって言うのです。

「たぶん人が何かを得るのは、ごく数回だ。ちょっと…難しいけど何となくは分かるな?」

原作のこのシーンに、これに対応するセリフはありません。僕はこのセリフがたまらなく好きです。望月版『ちいさこべえ』は、日々のちょっとした仕草や言葉をとても大切にしています。茂次は、そうしたものの中から、何かを得ようとします。人生で、何かを得るのは、きっとごく数回だけれど。

いつもうまく言うことができない意地っ張りの若頭領が、小さな言葉を大切にしようとする物語。いわゆる人情話であった「ちいさこべ」は、さらなる深みを獲得しているのではないか、などと思ってしまいます。

ちいさこべえ 3 | 小学館

第12位

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▽ 平野耕太『ドリフターズ』(4)

まずい、いくらなんでも面白すぎる。歴史上の偉人が集まって国奪りだーの平野版魔界転生。4巻の表紙は土方歳三!

サムライになれなかった新撰組副長が、よりにもよって裏切られた因縁の相手である薩摩(の遥か昔)のサムライ・島津豊久と戦い、彼に「ようやっと日本武士と戦さん出来たと思うたに」と評される。よかったね土方さん。よかったね……。

織田信長、那須与一、ハンニバル・バルカ、サンジェルマン、安倍晴明、ラスプーチン、明智光秀、山口多聞、スキピオ・アフリカヌス、菅野直……。生存説が存在する歴史上の偉人オールスターですが、あと誰がいたっけそういう人……西郷隆盛とか? とにかくこんな人たちが楽しそうに戦争をする話です。面白すぎる。今後、誰が出てくるのか、どうするのか、そもそもちゃんと完結するのか、いつ完結になるのか、色んな意味で目が離せませんね!

dfltweb1.onamae.com – このドメインはお名前.comで取得されています。

第11位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4832234331/minesweeper96-22/

▽ 二宮ひかる『神崎くんは独身』

二宮ひかる先生による「週刊漫画TIMES」連載の「神崎くんシリーズ」をまとめた1冊。

前半「神崎くんのいとこ」は、もうごく普通に、いつもの二宮ひかる。安心設計。ある日、神崎くんの元に15年ぶりにやってきた、いとこのユウコ。不倫相手に会いにきて、ふられて、さてどうする。いつもの二宮ひかる。安心設計。

本番は後半「海辺の町にて」だ。前半の数年後のお話だけど、いきなり神崎くんは海辺の町で世捨て人のように海を眺め続けていて、そこに不思議な家出少女・詩織がやってくる。あれユウコはどうしたの。結婚して、そのあと死にました。ほんと、まじで、やめて…………。

彼の姿を見る詩織は語る。「お母さんもそんな感じだった。笑わなくなって、眠らなくなって、食べなくなって、死んじゃいそうだなって思ったら、本当に死んじゃった」……死んじゃいそうな人は、結構あっさりと、本当に死ぬ。では、愛する者を亡くした人は、どうやって生きていけば?

「死んでしまっても構わないって、思ってるでしょ!」

喪失とどう折り合いをつけるか。喪失を失うことすら怖いのか。笑える日は来るのか。死んでしまっても構わないなんて思っていないけれど、じゃあどうやって生きたらいいのか。本作は、その回答のひとつを提示します。受け入れるべきか、抗うべきか。僕は未だ、答えを出せずにいます。

それにしても二宮ひかるの描く女性はだいたいこの2パターンである(ふわふわ茶髪か黒髪ストレートか)

神崎くんは独身│漫画の殿堂・芳文社
http://shukanmanga.jp/sample/kanzakidok_1/comic.php

第10位

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▽ 野村宗弘『満月エンドロール』(上) (下)

子供のころの思い出の場所を妻と共に歩く。あり得ない世界。走馬灯の中で、ずっと昔に死んだ妻と人生を振り返る。

『とろける鉄工所』も『うきわ』もそうですが、野村宗弘はあまりにも理不尽でひどい世界を、コメディたっぷりに、幸せに描くことに長けすぎている。その力は本作『満月エンドロール』でも遺憾なく発揮されています。走馬灯の中の2人は幸せそうで、やがて来る「妻が殺されるシーン」を、妻のたえちゃんはできるだけ見せないように、幸せな部分だけ見せるようにと心がけます。

妻の死後、その真相を探る夫・望月さんの姿を、たえちゃんは嫌がります。そのように生きてほしくなかったのか、そんな姿を見たくなかったのか。そうやって生きて、禿げたおっさんになって、警備員の夜勤中に心臓発作を起こして、死ぬ1秒前。物語は、走馬灯の終わりとともに幕を閉じます。

あまりにも幸せすぎる、都合の良い展開です。何しろ走馬灯で出てきてくれるんですから。こんなにも幸せな走馬灯を描いた作品を、僕は見たことがありません。

満月エンドロール / 野村宗弘 - イブニング公式サイト - モアイ

第9位

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▽ 大今良時『聲の形』(2) (3) (4) (5) (6) (7)

読切の段階では「ふーん」程度でした。連載が始まってもしばらくは「へえー」でした。ところが1巻ラスト、高校生編に入ってからがさあ大変。どハマりしました。毎週水曜日は「聲……」しか言っていませんでした。

本作は、耳の聴こえない少女・西宮硝子と、彼女を小学生時代にいじめていた(そしてそのことで次にいじめられ、同時に過去のいじめを後悔している)少年・石田将也を中心とした物語です。本編は一部の例外(具体的には6巻)を除いて、将也の視点で描かれます。将也が知り得ないこと、見ていないこと、見ようとしていないこと、興味がないことは描かれません。結果、周囲の人間の顔にはバッテンが張り付けられ、彼の世界は母親と、そして硝子とだけに閉じようとします。しかし、硝子の妹・結絃が、そして新しくできた友人・永束が、彼の世界を半ば強引に拡張します。戸惑い、間違い、手探りのまま、それでも将也は少しずつ、他者を、そして硝子を、きちんと見ようと努力していきます。

将也は過去の後悔から手話を覚え、硝子に話しかけます。彼女の言葉を理解しようとし、彼女のために命を使おうとします。同様に将也は、少しずつ周囲の人間をテンプレートに当てはめるのではなく、恐れず顔を見て、声を聴き、理解しようとしていきます。実はこの物語は、たったそれだけのこと、ただそれだけの試みをしていくための、助走をし続けるようなお話なのではないか、と僕は思っています。たったそれだけのことが、どれだけ困難か。それを示すためなのか、本作では行間をあまり語らず、硝子の手話にも字幕を付けず、表情と、言葉と、手話で、理解しようと努めよと迫ってきます。ありとあらゆる「聲の形」を描き、それを受け止める。あたかも作者と読者のコミュニケーションの媒介のように、本作は機能します。

「生きるのを手伝ってほしい」という将也の言葉が、正しいかどうかは分かりません。でも、あのシーンで、この言葉を紡げるこの男を、僕は心底、尊敬します。

これをメジャー少年誌で、週刊連載で描き切ったという事実は、称賛に値します。2014年を代表する少年漫画と言っていいのではないでしょうか。

あと佐原と植野は早く結婚して。早く。

週刊少年マガジン公式サイト | マガジンファンになろう!

第8位

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▽ 松浦だるま『累 -かさね-』(2) (3) (4)

松浦だるま先生しゅごい。

伝説の女優であった母・透世の形見である口紅を塗って、自らの醜い顔を他者と取り替え、舞台に立つ少女・累(かさね)。美しい舞台女優・丹沢ニナと出会った彼女は、演技の才能を買われる。「舞台に立ちたい累」と「演技はできなくても女優でいたいニナ」という利害が一致したことで、ニナとして舞台に立ち、評価を高めていく累。さて、交換したのは本当に顔だけだったのか。ニナは少しずつ後悔し……。

……なんというストーリーなのか。累とニナの共犯関係は少しずつ壊れていき、やがてニナ本人が壊れる。その一方で、少しずつ母・透世の真実も明らかになっていく。口紅が母の持ち物だったのだから、当然、母も、誰かの顔を。やがてニナとしての人生を手に入れる累の前に、今度は累の腹違いの妹・野菊が現れる。そうと知らず惹かれ合う2人。だが、野菊の死んだ母は、本当の「透世」である……。

「累ヶ淵」の怪談をベースとした本作は、デビュー作とは思えない完成度の一級品です。「美醜」というあまりにも身も蓋もないモチーフに真正面から取り組みつつ、なんと「醜いアヒルの子」かと思いきや累は別に内面が美しいわけではないというこれまた身も蓋もない感じであり、既に「最終的に累は地獄に落ちるんじゃないかこれ」という残酷なフラグが立ちまくっています。辛い。ちなみに何度も言いますが本作の唯一の欠点は累が可愛いことです。裂けた口が可愛い。

余談ですが、母・透世=誘の物語を描いた前日譚が、本人執筆の小説として刊行されています。こちらもめっちゃくちゃ面白いので必ず読みましょう。というか松浦だるま先生、小説家としても才能ありすぎでは? もっと読みたいです。

累 -かさね-|イブニング公式サイト - 講談社の青年漫画誌

第7位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4781612423/minesweeper96-22/

▽ 吾妻ひでお『カオスノート』

昨年、大傑作『失踪日記2 アル中病棟』を発表した吾妻先生が、今年も新作を描き下ろし! しかもナンセンスギャグ! これが! これが吾妻先生だ! やばい!

とにかく暗い。いや、基本的にギャグで、シュールで、明るくて、馬鹿馬鹿しくて、面白いんだけど、暗い。不気味。怖い。でも面白い。すごい!

1ページ1ページ、とにかくどこを開いても圧倒的。全ページ、美術館に貼っていったら、それだけでとんでもないアート作品になりそうです。あと作中でたまに酒飲んでるの、すごい不安になります。アル中から復帰したのに自分自身のキャラクターに酒を飲ませて大丈夫なのどう考えてもおかしい。完璧に自分自身とは別物と突き放し、一切のパロディも封印して、なにとも繋がらない孤高のナンセンスギャグ・1000本ノックをしているような、そんな感じです。

いくつかのパターンがあって「崖シリーズ」とか「旅シリーズ」とかあるわけですが、僕は「散文詩シリーズ」が大好きです。

○月○日
朝から生きてる気がしない
食事もおいしくない
街にも活気が無かった
蛇口から出る生温かい血を溜めて
いつまでも浸かっていた

これがちゃんと漫画になっていて、ギャグになっている。なっている? なっている、と思います。多分。読んでて面白いから多分そう。すごい。

トップページ - マトグロッソ|イースト・プレス

第6位

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088900723/minesweeper96-22/

▽ 福島鉄平『アマリリス』

『サムライうさぎ』の福島鉄平先生が帰ってきた!

ジャンプLIVEにて発表された「きらわれもののマギル」の時点で新境地の予感はしていたものの(こちらは同時発売の『スイミング』に収録)、ミラクルジャンプで突如発表された短編「アマリリス」は、あまりの衝撃に雑誌を手から落としそうになり、これはやばいと思ってTwitterを見てみたら、やっぱりみんなやばいどうしよう最高と叫んでいました。親に捨てられ、へんたいのおじさんに売られ、女装して歌を歌い酒を作り客を喜ばせる仕事についた11歳のジャンは、サッカー少年・ポールと友人になるも、彼があまりにもキレイで、自分はきたないから、そばにいてはいけないし、嫌われたくないと感じて、ある行動に出ます。とても美しいその描写に、何度見てもため息が出ます。こんなものが描ける人だったなんて。もっと早く描いてくれ!

その他の作品も大変良くて、やはり特に「ルチア・オンゾーネ、待つ」がマーベラス。ある貴族が締め付けてる農夫たちの雰囲気悪くなってきたので娘のルチアをしばらく孤児院に預けてて、ルチアはいずれ父が迎えに来るからとお稽古せずふふーんと生きてて、友達いなかったけど同じような状況の女の子・ベッラと仲良くなって、そんな時、貴族の父が農夫たちに……という話。もうとにかく、表情が良い。ルチア・オンゾーネのすべての表情が。幼くして生きるとはどういうことかを悟る彼女の姿は美しい!

この『アマリリス』と、同時発売の『スイミング』での作者の言葉を読む限り、やはり氏は「自分は少年漫画誌向きではない」という葛藤を持っていたようです。その結果、青年誌に活動の場を移し、ずっと描きたかったという「アマリリス」を始め、少年誌では絶対に描けない物語を連発、こうしてここに素晴らしい短編集が誕生したというわけで、本当に、ミラクルジャンプ編集部(そしてヤングジャンプ編集部)ありがとうという気持ちでいっぱいです。

こうなってくると、次は連載が楽しみになってきます。頼む。頼む……。

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第5位

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▽ 山田参助『あれよ星屑』(1) (2)

ゲイ雑誌で作品を発表してきた山田参助先生が戦後日本を描く。もうこれだけで「絶対に読まなきゃ」となるわけですが、やっぱり素晴らしかった!

酒浸りの日々の川島徳太郎は、戦友・黒田門松に再会し、2人で焼け跡の日本で生きていく。しかし、川島は常に「あのとき死んだ方が良かった」と言い続ける。そんな川島を慕う黒田だが、あるとき川島は倒れ、そのまま回想、戦中編へ……。

とにかく絵がうまい。さすがとしか言いようがありません。それも壮絶な色気です。川島班長めちゃくちゃ色っぽい。この優しくて昼行灯を装った切れ者の男が、どうしてそこまで死んだ方が良かったと言い続けるのか、黒田はそれを支えることができるのか。2巻戦中編の、終盤の描写はあまりにも壮絶です。

「自分も遠からず祖国のために死ぬでしょう。我々も死ぬために生きている」

月刊コミックビーム

第4位

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▽ 安田弘之『ちひろさん』(1) (2)

『ショムニ』で知られる安田弘之先生の最新作は『ちひろ』の続編。当時は風俗嬢、いまは海辺の町のお弁当屋さん。つまりこれは弁当漫画です。

彼女のもとに訪れる老若男女を、ちひろさんは、時になだめ、時にすかし、見つめ、語り、包み込み、突き放し、彼ら彼女らの人生を見つめ直させます。あまりにもカッコいい、世界一カッコいいお弁当屋さんです。でも、きっと恐らく、彼女のカッコよさを「カッコいい」なんて言うのはあまりにも無責任です。特別な存在の聖性に救済を求めるとき、じゃあその本人はどうすればいいのか。一人の時間を必要とする彼女を、頼るのは不誠実だ。だから「こんな物語は面白くも何ともないし、ちひろさんは全然カッコよくなんかないね」と、僕はそう言わなければならないと感じています。めんどくさいですね。

鏡のような女性です。何を求めて覗いているのか、その欲望が覗き返す。彼女にはすべてお見通しで、絶対に太刀打ちなんてできないけれど、そうやって卑屈になりながら彼女の魅力に縋ることこそが俗なる欲望であり、それを自覚して絶望します。

ちひろさんに関わって救われた者たちを見て、心を穏やかにするのもいいでしょう。でも、その中心にいる彼女の空洞はどうすればいいのか。その内面を覗こうという行為もまた、俗なる欲望でしかなく、そして僕は途方に暮れる。

いつになったら彼女の立つ場所に至れるのか。そういう昏い願望を思い描きながら、この漫画を読んでいます。

安田弘之『ちひろさん』は最高にカッコいい海辺の弁当屋さんの看板娘でありとても良いのだけどうまく良いと言えないという良さがある - From The Inside
ちひろさん 第1巻 | 秋田書店

第3位

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▽ 津原泰水、近藤ようこ『五色の舟』

原作は津原泰水さんが2011年に発表した『11 eleven』収録の同名小説。近年は坂口安吾の作品のコミカライズを発表してきた近藤ようこ先生が、この美しい見世物小屋の一座を描きます。

小さな舟に住み、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ異形の者5人の“家族”は、未来を言い当てる怪物「くだん」を買い取るべく岩国へ向かう。両腕がなく耳も聞こえないが心を読める少年「和郎」と、結合双生児として生まれながらひとり生き残った言葉を話せない少女「桜」は、やがて「家族たちが舟を乗り換える」という夢を見る。みんなが舟を乗り換えて去っていってしまうことを恐れるなか、ついに「くだん」と出会った2人は、「舟=世界を乗り換える」のが誰なのかを知る。

舟を乗り換えることへの複雑な感情、舟を乗り換えるのが自分たちであったという事実への驚き、乗り換えてしまった新たな(産業奨励館が原爆ドームにならなかった!)世界への視線、そして、乗り換える事のできなかった心。たとえ爆弾によって終わってしまう世界であったとしても、それでもあの美しい舟に自分の魂は返っていくのだという確信。私たちの生きる現実世界に、くだんはいません。舟を乗り換えることはできず、幸福な世界を選択することはできません。それでも希望があるとすれば、それは和郎と桜が、今でも美しい五色の舟に魂を置いていっているということ、その事実ただ一点のみ。

この美しい物語を、漫画という形で完璧に再構築し、産業奨励館を描いたこと。奇跡ともいうべき素晴らしい作品だと思います。

近藤ようこ/津原泰水『五色の舟』の美しさは、舟を乗り換えることができないこの世界の最後の希望である - From The Inside
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第2位

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▽ 山本美希『ハウアーユー?』

美しい異国人妻と優しい夫、かわいい一人娘の三人家族。お隣さんの中学生のナツミの目には、絵に描いたような幸せな家庭に映る。ところが、夫が失踪し、妻・リサが壊れ始め、ナツミは彼女のために、きっと夫から来るはずという手紙を確認するべく、日々郵便受けを開ける役割を担う。だが、たまたま郵便受けを開ける時間を居眠りしてすっぽかしてしまったばかりに、大雨の中ナツミを待ち続けたリサは、朦朧としたまま冷凍庫に手を突っ込んだ状態で気を失い、救急車で運ばれる。

ナツミの善意は、必ずしも良い結果をもたらしません。そもそも、善意がいつも良い結果をもたらすことなどないのが、私たちの生きるこの社会です。だからナツミは、リサに罪悪感を持ち、リサのために、リサを思って、善意で最悪の選択肢を選びます。「ツミちゃん」とリサに呼ばれる彼女のその名は、まさしく罪の具現化です。

人の善意が人を壊し、取り返しのつかないことになって、やがてナツミは、リサを憧れのバービー人形と重ねていたと懺悔します。映画を意識したフレーミングは、リサの悲劇を美しく切り取り、そしてそれを美しいと思うことこそが罪なのだと、ナツミの懺悔によって物語が幕を下ろす。「ハウアーユー?」という問いに、いつも「ファイン」と答えられるわけではない。美しく見えてしまうことの罪深さを自覚した者だけが、彼女に「ごきげんいかが」と問うことができる。私たちの生きるこの社会は、こんなにも複雑で、豊かで、残酷なのです。

表現技法という点で見ても、本作は2014年のトップクラスです。漫画というより映画に近い見せ方ですが、たった2色でここまで表現できるのかと思うと、漫画の可能性を感じずにはいられません。

バービー人形と罪の形――山本美希『ハウアーユー?』 - From The Inside
ハウアーユー? 山本美希

第1位

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▽ 阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』

ぐうの音も出ないほどの大傑作。

純粋無垢で「ちょっと足りない」ちーちゃん。その友人のナツと旭。ちーちゃんに勉強を教える奥島くんと如月さん。不良の藤岡。何もない町で、ちーちゃんを中心に、楽しく、日々を過ごす。やがてちーちゃんはある事件を起こす。でも旭が正そうとする。奥島くんと如月さんも支える。藤岡は道を示す。和解できる。謝ればやり直せる。「ちょっと足りなくたってどうだって楽しんで生きていける」。めでたしめでたし。

そこにナツはいない。

なぜ足りないのか。なぜ足りないと思うのか。なぜ足りない人生に満足できないのか。なぜ足りない世界を生きなければならないのか。なぜすべてが救済される奇跡のような場に、彼女はひとり、足りないのか。

主人公にすらなれず、足ることを知らない、舞台に上がることすらできなかった人間の物語。でも絶望だけではありません。この漫画が、大きく取り上げられ、多くの人に届いているという事実が、実はナツを救います。多くの人に読まれ、ナツの姿に共感する人が増えれば増えるほど、きっとナツは救われる。「どうせ私だけがクズですよ」と真っ暗闇でつぶやいていたナツを見て、自分もそうだと声をあげる。自分ひとりではない。こんなにも世界にはナツがいて、みんな足りないと思っている。そうやって初めて、自分のことをクズだと思っている数多くのナツが、自分だけではないと感じられる。この作品に意味と救いがあるとしたら、きっとそれは、そうやって広がっていくこと、そのものにあるのでしょう。

足りない、足りない、足りない。阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』 - From The Inside
ちーちゃんはちょっと足りない | 秋田書店