おねがいだから死んでくれ。阿部共実『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』1巻

何が全部つまらないだよ
お前が物事を楽しむ感受性が欠乏してるんだろ
つまらないのはお前だよ
なんなのねえ? そういうの流行ってるの?
人気の漫画とかテレビとかわざわざつまらないって押しつけてくるの
薄っぺらいんだよ何もかもお前は
かわいそうな奴

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書店に行ったら年末恒例「このマンガがすごい!」コーナーができていて、阿部共実先生の作品が並んでいて大丈夫かな……みたいな気持ちになる日々です。

新作です。Webコミックサイト「Champion タップ!」連載のオムニバスもの。『空が灰色だから』を思い出しますが、Web連載のため各話のページ数がまちまちで、内容も含めてよりフリーフォームになっています。『ちーちゃんはちょっと足りない』を同時期に連載していた関係で、そこからあふれたものがこちらで描かれているようにも見えます。

死んだ弟を降霊させようとする兄を描いたホラー(と思いきや……)の第1話「お前がどんな姿、形をしてようとも」に代表されるように、ホラーと思いきやコメディ、コメディと思いきや鬱、ギャグと思いきや笑えない……などなど、1話単位で一筋縄ではいかなくなっており、重層的な構造が増えています。恐らくは作者本人のこだわりであろう目次や各話タイトルのゾッとするデザインと相まって、コメディが多めなのに、全体としては不気味で病的な仕上がりです。

死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々 第1話 | 阿部共実

空灰の「私のルール」をさらに深化させたような、<一旦拭きたい症候群>にかかってしまった先輩のお話、第2話「一旦だけ一旦だけでも」は、特に重層的な構造になっています。後輩の女の子2人のコメディとしてスタートして、先輩が登場し、<一旦拭きたい症候群>がギャグとして機能しつつ、後輩の1人高柳は先輩を気遣い、泣き出し、その涙を先輩が拭いて……。そうやって丸く収まった心情すべてを、ラスト1ページ、ラスト1コマが掻き乱します。

中盤から終盤にかけては、各話の並び自体も強烈。ストレートなラブコメ「それがだよ」の直後に、「もう嫌だー!! 全部嫌だー!!」と泣き叫ぶ「10時間」を配置し、バイト先のお姉さんコメディ「アルティメット佐々木27」を挟んで、「なんでオレだけつまらないんだよ! なんでいつもそっち側になれないんだよ!」という慟哭が響く大傑作「おねがいだから死んでくれ」でクライマックス。ラストは個人で発表していた名作短編「深い悲しみ」&作者史上最高怪作「1/4黒ニーソメガネ児童液」で〆という恐ろしい構成です。1冊を通してのこだわりが感じられて良いですね。

世の中をおもしろいって思えるならオレもそっちに連れていってくれよ!
おもしろいことをオレにも教えてくれよ!
なんでみんなしてオレをのけ者にするんだ!

「おねがいだから死んでくれ」は何度読んでも辛くなります。