バービー人形と罪の形――山本美希『ハウアーユー?』

『Sunny Sunny Ann!』で手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞した山本美希の受賞後第1作。336ページ描き下ろし。

中学生のナツミのお隣さんは、美しい異国人妻と優しい夫、かわいい一人娘の三人家族。ナツミからは絵に描いたような幸せな家庭に映る。だがある日、夫が失踪し、妻・リサは壊れ始める。夫から手紙が届くはずだと思いながらも怖くて郵便受けを開けられないリサの代わりに、ナツミは郵便受けを開ける役目を負う。

僕は良い映画を見るのが好きなのですが、良い映画だと思う条件のひとつに「世界の複雑さや豊かさを、はっきりと実感させてくれる」という点があります。『ハウアーユー?』は、上質な映画を2時間半かけてどっぷり観たような気分にさせてくれます。世界は複雑で、とても豊かです。

ナツミは一貫してリサの味方であり続けます。ナツミにとってリサは憧れのバービー人形そのものだったからです(バービー人形自体、リサからもらったものです)。でも、ちょっとしたことや、ナツミの善意から来る過ちによって、事態は悪化していきます。ナツミはリサから「ツミちゃん」と呼ばれます。言うまでもなく罪の具現化です。

淡々と流れていく日々の悲劇性は、明らかに映画のフレーミングを意識した画面構成に支えられて増幅していきます。読む者はそこに美しさすら感じてしまう。そして、そう見えてしまうことそのものが罪であると、最終的にナツミは述懐し、物語は収束していきます。

二転三転していく終盤の展開と、ナツミの最終的な罪の懺悔、そして最後のコマに至るまで、すべてが完璧です。読み終えて完全に打ちのめされました。世界の複雑さに目眩がしそうです。

巻末には作者による「画面上の表現についての解説」が掲載されています。本人いわく「DVD特典によくあるコメンタリー風」であるこの解説、普通は作者によるものは蛇足になりがちですが、どのような意図があってその表現に着地したのかといったテクニカルな部分に抑えてあるため、読後感を良くする効果がありました。面白いですね。

いよいよ2014年も終わりに近づいてきましたが、本作は今年の作品の中でも間違い無くトップクラスです。問答無用でオススメ。以下の特設サイトで1話が読めるので必ず読みましょう。

ハウアーユー? 山本美希

それにしても町田洋といい、祥伝社さんすごいなあー……。

山本美希『ハウアーユー?』、「複雑な現実」を生きる女と少女の物語 | gotamag
極悪人は誰もいなくても生きていけないこともある 山本美希「ハウアーユー?」: 独立時代