パナヒ、アシュラ、園子温、西島大介、とよ田みのる、柳原望、クノー、池田亮司

最近見聞きしたもの、書く暇がなかったのでまとめておきます。

■ ジャファール・パナヒ『これは映画ではない』

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反体制活動により「20年間の映画製作禁止」を命じられたイランの映画監督ジャファール・パナヒが、友人の映画監督を自宅に呼んでいろいろしているところを撮影した映画映像。

弁護士との電話での会話をそのまま撮影し、刑を言い渡される前に書いておいた脚本を読みながら家の中でテープを引いて再現するも「こんなことして何になるんだ」と途中で頭をかかえ、2人で映画を見ながら「ほら、ここで役者が監督を演出し始めたんだよ」「これは場所そのものが演出している」と語り合い、外で行われている火祭りの様子をiPhoneのムービーで撮影し始め、ゴミを収集しにきた管理人の後ろにくっついて撮影し……。映像データはUSBメモリに入れてこっそり国外に輸出したとか。

普通の人がやったら普通のホームムービーにしかならないのに、やけに面白いことが起きる面白い映像に仕上がっていて、本当は監督業やったんじゃないの?と思わずにはいられないシニカルな作品です。まさに天才。This Is Not a Film!

■ さとうけいいち『アシュラ』

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ジョージ秋山先生の名作『アシュラ』がまさかのアニメ映画化。監督はタイバニのさとうけいいち。

生まれてすぐ親に捨てられ、けものとして生きてきたアシュラが、心優しい住職や少女と出会って成長と苦悩の中でもがくという心温まるヒューマンストーリーです。ちょうど映画館では隣のスクリーンでまどマギをやっていて、子どもが観て泣いちゃったみたいな話がありましたが、アシュラは僕が観たときに後ろに小さな女の子連れの親子がいて、最後まで真剣に観ていました。キッズにもオススメです。人を食べる描写とかあるけど。原作は発禁になったりしたけど。

CG、どうなのかなと思いましたが、これはこれで面白い表現だなあと思いました。アシュラの声がどうしても孫悟空にしか聞こえないのは仕様です。

■ 園子温『希望の国』

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『ヒミズ』では飽き足らず、本格的に震災&原発映画を撮ることにした、みんな大好き園監督の最新作。

原発事故に翻弄される3組の男女を中心に描かれる物語。あえてドキュメンタリーにしなかった点は非常に好感が持てます。夏八木勲と大谷直子が演じる主人公の老夫婦が素晴らしくて、もうお父さんカッコ良すぎるし、お母さん可愛すぎる。後半の盆踊りに向かうシーン良いです。息子夫婦の方は放射能恐怖症に対する引きつった笑いみたいなものを描写しつつ、若い恋人同士のミツルとヨーコが爽やかなので救われる感じ。

「そろそろ帰ろうよう」という、認知症のお母さんの口癖が完璧すぎると思いませんか。園監督はあんまり好みではないので期待してなかったんだけど、なかなか良かったです。

■ 西島大介『Young, Alive, in Love 1』

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ベトナム戦争の次は幽霊と戦うことにしたらしい西島先生の最新作。

巨大な「湯沸かし器」のある街、東京都M市に住む普通の高校生マコトと、見えない幽霊が見えるというスピリチュアル少女マナのLOVE&POPな恋とマシンガン。西島流ポップは放射能を「幽霊」として描くことにしたようです。

何もかもを湯沸かし器でぐつぐつ煮てみたらこうなりましたみたいな感じで、2巻が楽しみです。

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■ とよ田みのる『タケヲちゃん物怪録 2』

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1巻とは打って変わってにぎやかな装丁に変貌した2巻です。「えーっ!!!」とたまげる天丼ネタは漫☆画太郎オマージュなのか。

ベースの稲生物怪録との関わりという点では、神野悪五郎ならぬ神野悪六郎がしっかり出てきたりしつつ、だいたい妖怪がにぎやかに何かやってるみたいなノリは変わらず。雪女 風花が可愛すぎて生きるのが辛い。坂田金時の子孫も出てきてキャラクターは盤石になった感じ。毎回毎回、よくこんなネーム思いつくな……と感心することしきりで、やっぱりとよ田先生は天才だなと思わずにはいられない。

とよ田みのる『タケヲちゃん物怪録』『CATCH&THROW』に見る愛とコミュニケーション - From The Inside

■ とよ田みのる『ラブロマ 新装版 1』

ラブロマ 1 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

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そんな天才とよ田先生のデビュー作が新装版になったよ! わぁい!

何も言うことがないくらい名作なので、読んだことがない人は買うといいのでは。僕は読んだことあるけど買いました。とよ田先生の基本線である「愛とコミュニケーション」のすべてが込められた超ドストレートな夫婦漫才物語です。

表紙はDEMO TRACK SIDE Bの遊園地デート。左下にちゃんと塚原とヨーコちゃんがいるの素晴らしいですね(僕はこの2人が大好きです)。装丁すごく良い。

■ 柳原望『理不尽のみかた 1』

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『高杉さん家のおべんとう』という名作を連載中の柳原先生が、不定期で連載していた理不尽漫画。

国民から選ばれた11人の審査員が不起訴処分について審査する「検察審査会」という仕組みがありまして、主人公はその事務官さん。ありとあらゆる「理不尽」を訴えられる彼女は、自身の「理不尽」に戸惑いながら、隣に引っ越してきた元気な日本オタクのイギリス人留学生の影響を受けて「理不尽の見方」を変えて「理不尽の味方」になるというお話です。

丁寧に、現場の「理不尽」なエピソードを取り上げながら、なぜ僕らの社会には「理不尽」があふれているのか、どう「仕方ない」なんて言いながら理不尽と向き合うべきかを教えてくれる、優しい漫画に仕上がっています。柳原さんすごいなあー。

■ レーモン・クノー『文体練習 レーモン・クノー・コレクション 7』(松島征・河田学・原野葉子・福田裕大 訳)

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文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7) | レーモン・クノー, 松島 征 |本 | 通販 | Amazon

フランスの詩人で小説家のレーモン・クノーの1947年の実験的超名作『文体練習』が新たに翻訳されたので購入しました。

京都大学の故・松島征名誉教授が途中まで翻訳していたものを3人の弟子が引き継いで完成させたという1冊。「たった1Pで完結する、お話とも言えないような小さなエピソードを、99の文体で書く」という頭がおかしいとしか思えない試みが為されている本作、原書は当然フランス語なわけですが、それを日本語でいかに表現し直すか、という点が注目ポイントです。

これまでの文体練習の翻訳は、忠実に訳すのではなく、個々の文体の試みを咀嚼した上で、日本語で置き換える、というものが主流でした。しかし本書は、クノーがテクストに潜ませたいくつもの「謎」と「仕掛け」をあぶり出さんがために、あえて原文に忠実に訳しています。いかにしてクノーのテクストに接近するか……という試みはエキサイティングです。何度でも読み返そうと思います。

もちろんそんなに頭でっかちにならなくとも、ひとつひとつの文体はどれも笑えますし、装丁も可愛らしいし(なぜAmazonに書影が無いのか!)、各章のタイトルのデザインも凝っていて、ぱらぱらめくっているだけで楽しい本に仕上がっています。久々に、良い「本」と出会えました。

blog 水声社 » Blog Archive » 9月の新刊:『文体練習』
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121013/wlf12101315300026-n1.htm

■ 池田亮司 『datamatics [ver.2.0]』(KYOTO EXPERIMENT 2012)

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http://kyoto-ex.jp/program/ryoji_ikeda/

日本が世界に誇る電子音楽/ビジュアルアーティスト池田亮司の最新作が、京都で開催されているKYOTO EXPERIMENT 2012(京都国際舞台芸術祭)の一環で披露されたので、喜び勇んで観てきました。

京都造形芸術大学のキャンパス内にある京都芸術劇場 春秋座の巨大スクリーン&秀逸なサウンドシステムから発せられる、池田亮司の強烈な音と映像の塊にノックアウトされました。低音で服が揺れるのクラブっぽくてすごく良い。座ってたけど、周りが許せば踊りたかったくらい、アグレッシブで豊かな音像でした。世界の「データ」を音と映像に変換するとこうなるのかー、と考えるんだけど、思考をズタズタに切り裂くような迫力があって、ただの実験的アートではなく、ちゃんと美しい音楽と映像に仕上がっている点、やっぱり池田さんすごいよなあと打ちのめされました。来年公開予定という『superposition』も楽しみです。

東京の方は、10月25日から27日までの3日間、渋谷WWWで計5公演するようなので、ぜひ行ってみては……と思ったけどSOLD OUTだった。もし当日券が出たら絶対に行った方が良いです。27日には同じく渋谷WWWでなんとJeff Millsと一緒に出演してtest pattern [live set]も披露するそうです。行きてー。

http://www-shibuya.jp/schedule/1210/002577.html
http://www-shibuya.jp/schedule/1210/002926.html