ヨルゴス・ランティモス『籠の中の乙女』、知恵の実を食べて楽園を出た先にあるもの

痛い映画です。

f:id:minesweeper96:20120901164443j:plain:w500

映画『籠の中の乙女』公式サイト

ヤバいものを見た感が満載。ギリシャの裕福そうな家庭で、男1人と女2人の兄妹&両親の5人が暮らしていました。ところが子ども3人はどうも言っていることがおかしい。なんと父は「家の敷地の外は危険で車が無いと出られない」と教え込み、一歩も外部に出さないまま育て上げてしまった……という完全にイっちゃっている設定です。

なぜ父(と母)がそのように子どもたちを育てることにしたのかについては一切、語られません。語られないから余計に怖いですね。しかし、ひとつだけ言えることは、この両親は「本気で子供たちのためにやっている」ということ。もうダメだ……。

しかし無理は出てくるもので、ひとり息子もいい歳なので、性欲処理が必要となってしまいます。父は自身が勤める会社の警備員の女性に金を渡し、息子の“相手”をさせます。ところがこの女性は姉妹に接近し、少しずつ外の知識を与えてしまいます。ついには1人が彼女の持っていた映画のビデオを得てしまい、“知恵の実”を食べてしまいます。この知恵の実が『ジョーズ』『ロッキー』『フラッシュダンス』というところが最高です。

娘に余計な知恵を与えた蛇=警備員の女性を殴り倒した父は、今度は知恵の実を食べてしまった娘に息子の“相手”をさせます。そんな娘はある日ついに一大決心。常々「外に出られるようになるのは、犬歯が抜けて一人前の大人になったときだ」と教育されてきた彼女は、自らの手で、犬歯を! 痛い!(ちなみに本作の原題は『Dogtooth』!)

かくして彼女は「ある手段」で楽園を出るわけですが……ラストシーンが完璧すぎて鳥肌が立ってしまいました。籠の中の鳥が知恵の実を食べて楽園から出たら、その先にあるのがコレかよ!という。皮肉にも、楽園に残ったほかの子供たちの方が実は幸せだったんじゃない?と一瞬でも思わせてしまう恐ろしいラストです。

それにしても、この狂いっぷり&鬱屈っぷりは、いまこの時代のギリシャという国だからこそ出来上がったのでは……と思わずにはいられません。いろいろとヤバい状態であるギリシャという“楽園”を出た者の末路は……? ううう、キツすぎる。

イメージビジュアルでも使われている、フラッシュダンスのシーンは必見です。あ、でも痛いのがダメな人と猫が好きな人は見ない方がいいかもしれませんね。

- YouTube