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「何度も同じ思い出に繰り返し繰り返しひたるんだ」――阿部共実『月曜日の友達』1巻

僕は阿部共実という漫画家が大好きで、作品が出るたびに面白い面白いと喚き文章を書いてきました。でも段々、作品が圧倒的すぎて僕ごときが文章で何かを語るのが不可能になってきました。

『空が灰色だから』『大好きが虫はタダシくんの』『ちーちゃんはちょっと足りない』『8304』『7759』の、阿部共実の最新作。『月曜日の友達』の1巻が発売されました。大傑作です。信じられない。

月曜日の友達(1) (ビッグコミックス)

月曜日の友達(1) (ビッグコミックス)

毎週月曜日に発売される週刊ビッグコミックスピリッツで隔週連載中の本作。隔週とはいえ、僕らは「月曜日」に、阿部共実の月曜日の物語を読むことになります。

阿部共実はこれまで、主に思春期の少年や少女の物語を描いてきましたが、意外とストレートなガール・ミーツ・ボーイは多くありませんでした。本作では、中学生になって周りがいきなり大人びていくことにフラストレーションを持つ活発な少女・水谷茜が、夜の学校で超能力の特訓をしているという美しい少年・月野透と出会い、月曜日の夜に学校で会うふたりだけの秘密の約束をする、というところから始まります。

水谷は、阿部共実作品で繰り返し登場する「置いていかれる者」として描かれます。彼女には友人がいて、家族がいますが、友人たちはどんどん大人になっていき、姉は優秀な存在として比較対象となります。そんな彼女は、超能力の特訓という酔狂を行いながら、同時に水谷が欲しい言葉をいつだってくれる月野との月曜日の約束が、いつしか楽しみになります。

活発なスポーツ少女でありながら、同時に読書が好きだという水谷のモノローグは詩的で、このあたりも近年の阿部共実作品を踏襲した肌触りを演出します。美しい少年・月野はどこか「8304」を彷彿とさせる存在で、長男であるが故の面倒見の良さや他人の心情を察知する能力の高さを見せながら、同時に壊れてしまいそうな儚さを含有します。彼は学校で、有名な番長の妹・火木とその取り巻きにからかわれる日々を送っています。

置いていかれる少女と、壊れそうな少年。こうした阿部共実作品らしい2人の奇妙な友情は、「ちーちゃん」以降の作品に見られる、まるで空気がそのまま紙に落とし込まれたかのような高い画面構成力で展開されます。夏の匂いが、水の冷たさが、伝わってくるようです。どんな言葉を並べても陳腐にしかならず、困惑します。

単行本では、雑誌の段階からさらに背景などが大量に加筆されており、空気感がさらに増しています。一方で、1巻最終ページの各コマが構図から描き直されており、受ける印象が変わっているのも興味深いところです。

1巻かけて、じっくりと水谷と月野の物語を深めていきく本作、その幸せな在り方は涙が出るほどで、なぜこの人はこんなものが描けるのか理解できません。

同時に、本作は「ある予感」を感じさせ始めています。月野に「大人にならないでくれ」と、「置いていかれた者」である水谷はこの1巻で考えるようになります。でも、本当に水谷と月野は同じなのでしょうか? 阿部共実作品において、水谷は本当に「置いていかれた者」「持たざる者」「足りない者」なのか。では月野は。そして火木は。……心が壊れそうです。

俺はすぐ少ない思い出にひたるんだ。
何度も同じ思い出に繰り返し繰り返しひたるんだ。
するとやがてその思い出が色褪せてきて何も感じなくなっていくんだ。

この一か月
たった一度だけの月野との夏の思い出をよく反芻した。
なるほど確かに、思い出と呼ぶには昨日のことか
あるいは夢だったかのように
輪郭があいまいに溶けてしまった。
土森たちと花火大会に行った。
夏季限定の塾に通った。
学校の開放プールに行った。
家族と北海道へ行った。

あまりにも美しく描かれた大傑作であることはすでに疑いようがなく、そして同時に、阿部共実という漫画家のことを知っている者なら、1巻の段階ではほとんど目立たない、その小さなズレに思いを馳せることとなるでしょう。

漫画という表現をここまで突き詰められるのかと惚れ惚れします。素晴らしい。

やわらかスピリッツ - 月曜日の友達(第1話 試し読みあり)