テクノロジー、社会、ひと。山田胡瓜『バイナリ畑でつかまえて』

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山田胡瓜さんと初めて会ったころ、絵がうまいひとだなあと、よく僕は思っていました。いい意味で今っぽくない、どこかひとなつっこい絵柄で、とても好きでした。胡瓜さんはその後、講談社のアフタヌーン四季賞を受賞します。僕はとても驚き、勝手に我がことのように喜びました(ということで最初に情報開示。作者の山田胡瓜さんとはお知り合いです)。

そんな山田胡瓜さんが ITmedia PC USER にて連載していたマンガ「バイナリ畑でつかまえて」が、本人によるKDPで電子書籍化されました。めでたい!

www.itmedia.co.jp

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ITmedia上ではコマ単位で展開されていた本作ですが、僕は予てより「これ通常のコマ割りで読んだら二度美味しいよなあ」と思っていたので、今回の通常コマ割りレイアウトがとても嬉しいです(予想ですけど、おそらくもともと通常コマ割りをしておいて、ITmediaではコマ分割して載せていたのではないでしょうか)。

本編は基本的に、インターネットやテクノロジーと、社会、ひと、日常を接続したショートショートで構成されています。ITmediaで読んでいたときは気付かなかったけれど、だいたい2ページか3ページで収まる分量だったのですね。短編とすら呼べない掌編でこれだけの味わいを出せるのは、かなりすごいことだと思います。

その短さゆえに、行間を読むことが求められますし、そもそも普段からネットやテクノロジーに触れていないと理解できない仕掛けや筋書きばかりですので、万人向けとは言いがたいのですが、ある意味これは現代の星新一的SFとして正しい姿なのかもしれない、と感じます。とはいえ、いわゆる「ネット好き」向けのネタばかりではなく、むしろクックパッド的レシピサイトや、ガラケーの中に残されたメール、SNSと音信不通の旧友、など、ごく普通の人々にとってのインターネットやテクノロジーのある日常こそが光る構成になっています(僕は特にこの3つのエピソードがたまらなく好きです)。現代のテクノロジーと社会とひとの関係性をきちんと見ていなければ、これは描けないなあという内容です。とても現代的で、リアルであり、批評的です。

後半には、ITmediaでも5回にわたって連載された読切版「バイナリ畑でつかまえて」が収録されています。AIと死と遊園地。ITmedia連載時も、それまでコマ分割されてきた物語が一気に見開きで開放される瞬間のカタルシスはとても素晴らしいものでしたが、電子書籍版でもそれは同様で、小さな掌編の積み重ねの先に、大きな空に浮かぶ大切なひとの(バーチャルな)姿が描かれる様は、感動的ですらありました(なのでなるべくタブレットで見開きで読み進めてほしい!)

コマ分割、Webページ、電子書籍、見開き……というふうに、メディア論的にも興味深い形態変遷を経た本作ですが、タブレットに忍ばせてさらりと読むにもとても良い作品だと思います。

目指せ2巻……いつになることやらですが。

Kindle版「バイナリ畑でつかまえて」を出しました - 山田胡瓜@kyuukanbaのブログ

2巻はよ。今後も期待しています!


バイナリ畑でつかまえて。みんなも買って読もう

minekoukiさん(@minesweeper96)が投稿した写真 -