朔ユキ蔵『帰ってきたサチコさん』――理不尽な別れを意味あるものにするために

全面降伏。

マンガの目利きに関して絶大な信頼を(勝手に)寄せている白拍子さんの以下の批評を読んで、いてもたってもいられなくなり、書店へ走りました。そして読む。敗北。

朔ユキ蔵「帰ってきたサチコさん」 光射す方へ

「別れと再会」をテーマにした短編が5編。特に表題作「帰ってきたサチコさん」が圧倒的です。1930〜40年代と2013年を交互に描写し、少しずつ「主人公のサチコは10ヶ月前に1932年にタイムスリップし、そこで10年を生きた後、現代に帰ってきた(現代では10ヶ月しか経っていない)」という状況が見えてくるように物語を紡ぎます。

10年、夫と息子。それを捨ててなぜ彼女は現代に戻ろうとしたのか、そして現代で求めた何かは得られたのか。一方で彼女を失った過去の世界の夫・マキオは、ただひたすらに2013年を目指して生きていく……。

サチコは10年を経て、タイムスリップを引き起こした光と、そして現代と再会します。一方で、マキオはただひたすらに生き、自力で現代のサチコの時代へとたどり着きます。その先にあったのは再会なのか、再びの別れなのか。絶望と希望は表裏一体。気の遠くなるような時間に目眩を覚えます。

その他4編も「別れと再会」を主軸に極めて高いクオリティの物語を実現しています。いずれも「再会することで理不尽な別れを意味あるものにする」という人間ならではの生き方が見え隠れします。

読み終えた後、昔住んでいた家の近くまで歩いてみました。そこに再会は無く、なんだか泣きそうになってしまいました。

今年、最も素晴らしい1冊になるかもしれません。

小学館
朔ユキ蔵が5つの“別れと再会”を描く、短編集「帰ってきたサチコさん」 - コミックナタリー