ロバート・レッドフォード『声をかくす人』、法と空気と不条理

The Conspirator.

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南北戦争の集結直後に起きたリンカーン大統領の暗殺事件。逮捕された犯人グループの中には、犯人にアジトを提供したという疑いが掛けられた南部出身の下宿屋、メアリー・サラットがいた。彼女は民間人であるにも関わらず軍法会議にかけられ、それでも無実を主張。元北軍の英雄フレデリックは彼女の弁護人として裁判に臨む――。

空気とは恐ろしいものであり、抗えないものである、というのがよく分かるフィルムに仕上がっています。北部の人間にとって、リンカーン暗殺の犯人グループは「裁判なんてとっとと終わらせて即死刑」みたいな感じです。サラットの弁護をするフレデリックもまた、白い目で見られ、迫害されていきます。有事の際に人間は空気に流されてしまうからこそ、法というものが存在するのであると思いつつ、法の運用をするのはまた人間だからみたいなところで、結局うまくいかない部分が出てくる。辛い。

最初は渋々引き受けたフレデリックも、裁判のあまりの強引さ(そもそも軍法会議であること自体がヤバい)故に正当な裁判を求めて戦います。しかし一方で、「サラットが無実を主張しながら、同時に守ろうとしているのは、逃亡中の息子なのでは?」という推理から、決定的な証言を持ってくれば、それすなわち息子を売ることになりサラットの意に反するというアンビバレントな状況で苦悩し始めるのです。

この世界は、何が正しいのかも、何が真実なのかも、何が最善なのかも分からりません。本質的に理不尽で不条理です。法に基づき信念を貫かなければと戦う者は、視点を変えれば裏切り者にしか見えなくなります。

この映画の結末は、史実を紐解けば載っています。それでも観るべきです。ぜひどうぞ。

映画『声をかくす人』10月銀座テアトルシネマ 他全国ロードショー - YouTube