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石田あきら×橙乃ままれ『まおゆう魔王勇者』4巻。人間の、より善き者になろうとする自由

やっぱりまおゆうはいいな!

まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る! 」 (4) (カドカワコミックス・エース)

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ママレードサンド=橙乃ままれが2ちゃんねる「ニュース速報VIP板」「パー速VIP@VIPServise」において2009年に投下した小説『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』。いわゆるVIP的な台本形式を採用した本作は、その膨大にして緻密な物語が当時、話題となりました。記憶に残っている方もいらっしゃると思います。

魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」まとめサイト
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」目次

その後、本作は『まおゆう魔王勇者』としてエンターブレインから刊行され、さらに複数のコミカライズなどメディア展開が行われました。中でも、やはり突出して素晴らしいのが、石田あきら作画によるバージョンでしょう。『CANAAN』のコミカライズなどを担当した経験を持つ氏の作画技術は極めて高く、また「非常に細かい説明が多く、長い」という特徴のある原作をうまくマンガ表現に落とし込んでいます。

まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」 (1) (角川コミックス・エース 264-4) まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」 (2) (角川コミックス・エース 264-5) まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る! 」 (3) (カドカワコミックスAエース)

そんな石田版まおゆう、4巻が出ました。4巻ですよ。

4巻の内容は、原作ではだいたい4スレ目前半に当たります。物語としては、紅の学士の異端審問から、青年商人による小麦の大量買い付け(に伴う小麦高騰)までのあたり。で、最大の見所は、表紙を飾っているメイド姉による演説です。

原作は魔王と勇者の邂逅に始まり、農業革命、技術革命、経済問題、政治と戦争、民族問題、教育と啓蒙など、人類が歩んできたさまざまな出来事をトレースしていきます。たぶん、人によって、面白いと思うポイントは違うんじゃないかと思います。戦争、つまり武力による戦いの部分が純粋に面白いと思う人もいるでしょうし、主人公の1人である魔王の主戦場、経済の戦いと発展こそが最もエキサイティングであるとする人もいることでしょう。

僕は原作を読んだとき、何よりも、思想の重要性をしっかりと描いてくれたことに感動しました。メイド姉の演説のシーンで、僕は泣いてしまったのです。

魔王と勇者の館で働くメイド姉妹の姉は、元農奴です。彼女は魔王=紅の学士が「異端である」という嫌疑を掛けられ中央聖教会から引き渡しを求められた際、魔界へと戻り不在だった魔王に代わって、自らが紅の学士に化けて身を差し出します。あとから勇者が助け出す、というのが元々のシナリオですが、民衆の前で異端であるとして鞭打たれた彼女は、血を流しながら、それでも堂々と宣言します。自分は農奴の子であると。逃げ出して、優しく受け入れられ、救われたが、ずっと悩んでいたと。

運命は暖かく 私に優しくしてくれました
――安心しろ と 何とかしてやる…と
あんなにも優しい言葉を聞いたのは初めてでした
しかし――…
貴族の皆さんっ 兵士の皆さんっ 開拓民の皆さんっ そして農奴の皆さんっ
私はそれを拒まなければなりません
あんなに恩のある 優しくしてくれた手なのに
優しくしてくれたのに…優しくしてくれたからこそ
拒まねばなりませんっ
――私は
私は“人間”だからです

私にはまだ自信がありません
この体の中には卑しい農奴の血がながれているじゃないかと
そうあざ笑う私も 確かに胸のうちにいます
しかし だとしても だからこそ
私は“人間”だと言い切らねばなりません
なぜなら自らをそう呼ぶことが
“人間”である最初の条件だと 私は思うからです

階級社会における最下層としての農奴にとって、それは恐らく考えることすらしなかったこと。人間とは? 自由とは? 善き生とは? 考えるのを止めるな、自分が人間であるとまず呼ぶことこそが、人間の始まりであるというこの演説は感動的です。何よりこれが、メイド姉というキャラクターによって発せられたという点が見事。まおゆうは序盤において魔王が経済学を中心とした豊富な知識をもって啓蒙するというやや強引なリードを行っていて、それ故に帝国主義的啓蒙であるという批判も多かったのだけれど、徐々にその役割は各キャラクターたち自身が考え、行動するという形で伝播していくわけで、実際のところそこからが本番ということもできます(そこに至るために、超越的な知識を持った魔王というキャラクターを必要としてしまったというのは、確かに改善の余地があるのかもしれないけれど)。その起点にして、物語世界の大きな転換点となったこのエピソードが、魔王たちの最初の教え子であったメイド姉によって自発的に為されるという流れは、やはりグッとくるものがあります。

このシーン、石田版の気合いの入り方がすごい。この演説はかなり長いのですが、それが20ページ以上にわたって、とんでもない強度の作画で描かれます。石田さんすごい。まだまだ物語はこれから、完結まで楽しみです。

そうそう、まおゆうはなんとアニメ化もされるそうで。そちらもどうなるのか(というか何話あれば全部できるのか……)、いろいろと楽しみです。

「まおゆう魔王勇者」TVアニメ公式サイト