笠井スイ『ジゼル・アラン』3巻、去りゆく者と残した言葉

ジゼルお嬢様マジ天使。

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何でも屋のお嬢様ものがたり、3巻目に突入。

アパートの大家さん兼何でも屋として成長を見せるジゼルお嬢様ですが、第1話よりパートナーを組んでいたエリックから「小説が佳作に選ばれたんで本格的に目指すためにアパートを出る」と聞いてびっくり仰天。散々「あんな子どもにそんな感情を」なんて思っていたエリックは最後に「ずっとあなたの事が好きでした」なんて言うわけであるが、対するジゼルお嬢様はひとしきり泣いた後「私もエリック好きだぞ」「お前は私の……はじめての友達なんだ」「はなれても忘れたりしないから」「ずっと友達だからな」とまあそんな感じですよ! いいよね! すごくいいよね!

入れ替わるように1巻ラストの“船長”ことリュカが帰ってきて、2人で変わり者の造船技師に定期船の修理の依頼をするという仕事を請け負うことに。「つまらないからやらない」「何でも屋なら、宇宙に連れてってくれ。そしたら直してやる」という挑発に乗るジゼルお嬢様が相変わらず過ぎて困る。困ったジゼルの手元にあったのは、エリックと初めて会ったときに2人をつないだ、彼の祖父の小説。別れ際にエリックの残したその小説が、ジゼルを救います。いいよね! すごくいいよね!

もともと小説が好きで、お屋敷から広い世界へと羽ばたいてしまったジゼル。小説家を目指し、夢を叶えるためにアパートを去ったエリック。2人をつなぎ、離れた後も力となった1冊の本。いつも「大事なもの」「大事なこと」を見失わないジゼルは、祖父の小説を「たいしたものではない」と言う初対面のエリックに言います。「自分の大事なものを大事に出来ないやつは、いつか何もかも失うんだぞ!」(愛読する小説からの引用!)——さて、ジゼルとエリックは、大事なものを大事にできるのでしょうか? 3巻のジゼルお嬢様は、これまでと比べて、複雑な表情をすることが増えているように思います。エリックの方も、夢を叶えにきたはずが……という。いいよね! すごくいいよね!

去りゆく者が、残した者に力を与えられるというのは、とても幸福なことなのでしょう。たとえ、大事なものを、いっとき見失ってしまったとしても。

笠井スイ「ジゼル・アラン」 - コミックナタリー 特集・インタビュー