タル・ベーラ『ニーチェの馬』、壮絶なるフィルム、世界の終わり、ひとかけらのジャガイモ

神は死んだ!

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天才タル・ベーラ監督の“最後の作品”。イタリアはトリノにて馬の首をかき抱きながら号泣し発狂したフリードリヒ・ニーチェの逸話から「じゃあその馬はどうなったのよ」という方向に飛ぶというとんでもないお話です。

本編は非常にシンプルです。風吹きすさぶ荒涼とした地に住む父と娘と馬が、日々淡々と仕事をし、ジャガイモを食べて眠るというだけの描写を6日繰り返します。モノクロのフィルムによる恐ろしいほどの長回しが、本当に淡々と2人の日々を描き出します。ああ、風の音が耳に残っている!

2日目に馬が動かなくなり、3日目にはエサすら食べなくなります。4日目には井戸の水が枯れ、5日目に火種が尽き……。言うまでもなく、これは旧約聖書の「神が世界を創造した7日間」の逆再生に他なりません(7日目は安息日)。でも2人は淡々と日々を過ごします。一度は土地を捨てようとしますが、丘の向こうに行った後、戻ってきてしまいます。丘の向こうはどうなっていたのか……。結局、水が無くなって蒸かしイモが作れず、火が無くなって焼きイモが作れなくなっても、生のイモを「食べねばならぬ」と食べるわけです。マズそうだったけど。

世界の終わりを極めて美しく描いた『メランコリア』とは逆に、世界の終わりを日々の延長線上に置いて淡々と進め、それによって逆説的にフィルムの緊張感を際立たせるというアプローチ。くらくらします。これは本当にすごい。

映画『ニーチェの馬』予告篇 - YouTube

これぞミニマリズム。これぞ映画。そんなふうに思える、素晴らしい作品でした。

ちなみに見終わった後、映画館(イメージフォーラム)の目の前にある「もうやんカレー」に入ってカレーを頼み、サービスのジャガイモを食べました。美味しかったです。

もうやんカレー 公式ページ